多才なデザイナーが考える伝統工芸品
佐藤オオキ氏 参照:https://newswitch.jp/p/19403
佐藤オオキ氏は、1977年カナダの生まれのデザイナーです。2002年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻修了後、すぐにデザイン事務所「nendo(ネンド)」を東京に設立。多くの企業デザインを手掛けて、その活躍は日本のみならず世界にも広がりを見せています。一方では、日本の伝統工芸品とのコラボレーションも積極的におこなっていて、産業としての伝統工芸の可能性と課題も模索しています。
プロダクトデザインから空間デザインまで手掛ける多才さ
大学ではずっと建築学を学んでいた佐藤氏。その視点が変わったのは、大学の卒業旅行で訪れたミラノでの体験でした。「ミラノの雰囲気や一般の人たちがデザインというものに対して盛り上がっている。そのすごく自由な雰囲気が、ずっと建築を勉強してきていた自分にとってはとても驚きで、デザインの魅力に一気に引き込まれました」。その体験から、佐藤氏は卒業後すぐに自らのデザイン事務所「nendo(ネンド)」を設立したのです。
そこからの活躍は、非常に目を瞠るものがありました。建築、インテリア、プロダクト、グラフィックと多岐にわたってデザインを手掛け、多才さを発揮。「Newsweek」の「世界が尊敬する日本人100人」に選出、「ELLE DECOR」をはじめとする世界的なデザイン賞を数々受賞するなど、世界的な評価を得ていきます。そして、世界を知った佐藤氏は、日本の伝統工芸に対しても積極的に関わっています。
デザインに対する海外と日本の違い
参照:https://casabrutus.com/posts/218607
佐藤氏が考える日本のデザイン、ものづくりの特徴は「間、余白、見立て」などに見られる「隠す」ことだと言います。「例えば周囲に春夏秋冬が描かれた茶碗は、季節に合わせてその面を客人に向けて差し出します。四季を1個の器に凝縮して、ひとつの季節だけを見せ、他の季節は隠すようにデザインされている」。
一方で海外では、この日本の「隠す」という特徴が通用しなかったという経験がありました。それは、海外ではコミニュケーションを重要視して、デザインの主旨をわかりやすく伝えるという手法をとるからでした。「つまり日本のものづくりとは対極です。日本では一を言って十を知るのが美徳とされていますが、一を言っても0.5しか伝わらない状態があります」と語る佐藤氏。ただ、その対極のものをミックスして、配分することで「日本らしさ」「欧米らしさ」を演出することもあると言います。そのセンスこそ、世界的に活躍している佐藤氏の特徴なのかもしれません。
これからの伝統工芸を考える
佐藤氏は世界で活躍する一方で、国内にも目を向け伝統工芸とのコラボレーションにも積極的です。産業としての持続性を模索しながら、海外とは少し違う価値観を持つ日本の伝統的なものづくりを、さまざまなかたちで世界に発信しています。
伝統工芸イコール保守的ではない
参照:https://www.nendo.jp/jp/works/kichizaemonx/?
佐藤氏が伝統工芸とのコラボレーションで感じたのは、多くの伝統工芸を担う人たちは、製品に対して保守的ではないということでした。「伝統工芸というと、どうしても『変わらない』『保守的』といった印象を持たれがちです。ところが、僕らがものづくりでのコラボレーションを行った作り手の皆さんは全く逆で、どんどんと新しい技術やトレンドを吸収されようとしているのが印象的です。素人目線で相談させていただく質問も、頭ごなしに否定されることなく、どうやったら実現可能なのかを精一杯検討してくれました」。佐藤氏は、このように伝統工芸の作り手もニーズがあればフレキシブルに対応していくことは、産業としての発展や海外進出に大きなアドバンテージとなると考えています。
フレキシブルに対応し、「日本らしさ」の配分も重要
参照:https://www.nendo.jp/jp/works/kichizaemonx/?
佐藤氏は伝統工芸がこの先も産業として、日本社会の中で生き残っていくには上記のような変革を受け入れるフレキシブルな思考が必要だと語ります。
「クライアントや作り手さんの『できない』という言葉で止まってしまうことが多いのですが、誰かが『できない』と言い出した時には、なぜできないのか、何ならできるのかを掘り下げ、思考を止めないことが大切だと思います」との言葉通り、思考し続けることが重要となるのです。
また、海外への進出については、次のように述べています。「『日本らしさ』にとらわれないことだと思います。海外で高い評価をいただいたnendoのデザインは、結果として海外で『日本らしい』と評価されることはありますが、デザインチームの20%以上は日本語を話さない外国人デザイナーですし、『日本らしさ』を意識してデザインすることはまずありません。伝統工芸というローカルな文化に根ざした技法を用いつつも、国籍や文化を超えた、人の暮らし、人の生活に思いを馳せていくことが重要だと思います」。
このように、伝統工芸の未来を考え、共に歩もうとしている佐藤氏。これからも、さまざまな角度から伝統工芸に関わり、世界に発信していくことでしょう。