ジャンルを問わずに自由に広がるデザイン
鈴木啓太氏 参照:https://www.axismag.jp/posts/2017/03/69116.html
鈴木啓太氏は1982年愛知県の生まれです。少年の頃からものづくりが好きで、多摩美術大学プロダクトデザイン専攻に進学。卒業後は大企業のインハウスデザイナーを経て、2012年に独立して「PRODUCT DESIGN CENTER(プロダクトデザインセンター)」を設立しています。鈴木氏は、ジャンルにとらわれないボーダーレスな活動をするデザイナーとして知られていて、プロダクトデザインはもちろん、鉄道車両のデザインなども手掛けています。今回は多様なデザインの世界を展開するプロダクトデザイナー、鈴木啓太氏をご紹介していきます。
祖父から影響を受けたものづくりへの考え方
鈴木氏がデザインした相模鉄道12000系
鈴木氏のものづくりに対する考え方に大きな影響を与えたのは、古美術を収集していた祖父でした。部屋には大量の古美術品が並び、鈴木少年がその部屋を尋ねると、祖父はひとつひとつについて丁寧に説明をしてくれたといいます。
古美術品を間近に見て育った鈴木氏は、子供ながらにも「時代を超えて残っていくもの、日本の工芸品に見られる季節や風土といった表現」について、強く心を惹かれたのです。
そして、「デザイナーの基本的な姿勢として、僕はものづくりの歴史、文化をとても重視しています」と、語るように祖父から受けた影響は、現在デザイナーとして活動をしていく上で鈴木氏の考え方の基礎ともなっています。
「富士山グラス」で始まった、自由に広がるデザイン
「Tokyo Midtown Award 2008」で審査員特別賞を受賞した「富士山グラス」
鈴木氏の出発点とも言える作品は、2008年「TOKYO MIDTOWN AWARDデザインコンペ」で水野学賞という審査員特別賞を受賞した「富士山グラス」でした。旅行好きだったという鈴木氏は、常日頃から世界を旅していたといいます。「学生のときからバックパッカーとして世界中いろんなところに出かけていました。そして先々で旅の記念になるようなお土産を買っていたのですが、日本に持ち帰ってしばらくすると『なんでこんなの買ったんだろう?』とがっかりすることの繰り返しで。実用性のないお土産ではなく、日用品としても使えるお土産をつくろうと思ったんです」と語るように、お土産品からヒントを得たデザインでした。
このグラスは2010年に商品化されて、大きなヒット商品となります。それまで大手メーカーでのデザインを担当していたため、デザインとマーケティングの乖離を感じていた鈴木氏は、富士山グラスの商品化を小さなチームでおこなうことで、マーケティングを含め、販売までの全てを経験。本当にに自分で手掛けたモノという実感を感じ、そこからさらに自由な発想のデザインと、マーケティングとの一体化を目指そうと決意したのです。
歴史の中に学ぶデザイン
燕三条の大工道具の老舗、株式会社高儀が鈴木氏のデザインで2019年に発表したキッチンツールブランド「DYK(ダイク)」
2012年に独立した鈴木氏は、分野を問わず精力的に仕事をしていきます。相鉄鉄道の車両デザインや刃物産業が盛んな新潟燕三条のメーカーと共同で展開するキッチンツールブランドなど、「ジャンルを問わず何でもデザインしたい気持ち」を実践するその活動は大きな注目を浴びています。それは、単に多分野に挑戦しているだけではなく、子供の頃に受けた古美術品からの影響が鈴木氏のデザインに現れているからでもあるでしょう。
歴史の中の1個の点になりたい
越前箪笥とのコラボしたブランド「OYANAGI」
「大量に発生して、大量に淘汰されていく中で、最も適切なものだけが残って、それが次の時代に受け継がれて進化し続けているからこそ、今の生活に、必要なプロダクトが存在している」と語る鈴木氏。派手さはなくても、歴史の中で淘汰されない堅実なものづくりをしていきたいといいます。
そこには、祖父との語らいの中で学んだ考えがありました。「祖父とともに骨董に囲まれて暮らしていると、残ってきたものには共通する強さや明快さがあることがわかってきます。子どもながらに何となく発見したことを、今はデザインで実現しようとしている感じですね。だから自分のデザイン活動が、脈々と続く歴史の中で1個の点になればいいなと、いつも思っています」
日本のローカリティを取り入れたデザインを
伝統工芸品を提供する株式会社織田幸銅器とのコラボ作品『鋳鉄製 ペーパーウエイト』
バックパッカーとして世界をめぐり、各国のローカリティに触れてきた鈴木氏は、日本のローカリティについて、次のように語っています。「僕が思う日本のローカリティは、やっぱり季節があること。例えば、器ひとつ取っても、春のお椀には春の花鳥風月が描かれている。大きな器から小さな器まで季節ごとに変える文化があるのは、日本ぐらいですよね。美しく変わりゆく四季とともに暮らしている感覚が、日本人には大前提として根付いているので、そういったものをデザインを通して残していきたいです」
その言葉通り、鈴木氏は海外で日本のローカリティを全面に出した作品を精力的に出展。「きれい」なだけではなく、複雑さや不均一さを持つ独特の作品を展開しています。
ときには3Dプリンターなども使い作品を制作する鈴木氏ですが、その根底には、日本で受け継がれてきたデザインの要素が必ず表現されています。今後も、鈴木氏の手掛けた古いものと新しいものをフュージョンした作品は、歴史の中に刻まれていくことでしょう。