地域文化である伝統工芸を守る
小林 正知氏 参照:https://www.athome-tobira.jp/story/160-kobayashi-masakazu.html
小林正知氏は、1986年青森県の生まれです。青森県の伝統ある漆塗りの工芸品、津軽塗(つがるぬり)の工房「小林漆器」の家に生まれ、現在は6代目として、伝統工芸の技術を守るとともに、さまざまなチャレンジもおこなっています。伝統工芸の担い手が減少し、技術の継承が危惧されている昨今、継承だけではなく、産業として復活させるという願いを持つ小林氏。今回は津軽塗の未来を担う若き6代目をご紹介します。
会社勤めを経て、家業を継ぐことを決意
津軽塗の作業風景 参照:https://xn--m7r74kb7kroh.com/
「実家が伝統工芸やっていると『身近すぎてよくわからない』というのがあると思うんですよ。僕も典型的なそのパターンで、後を継ぐなんて一切思っていなかったんです」と語る小林氏。子供の頃には美術や図工などの成績もよくなかったため、父親のような職人には向いていないと思っっていたそうです。そのため、工房などにもあまり入らずに津軽塗の工程もほとんど知らなかったそうです。
学校を卒業後、進路は東京へ出て一般企業の会社員という道を選んだ小林氏ですが、25歳のときに転機が訪ずれます。それは、父親から津軽塗後継者育成研修事業の研修生募集がある、と告げられたことでした。そして、その募集は3年半に1度しか行われないということだったのです。それを聞いた小林氏は、「この機会を逃したら津軽塗を学ぶチャンスはない」と家業を継ぐ決意をします。
津軽塗の奥深さを学ぶ
夫婦汁椀と箸のセット 参照:https://xn--m7r74kb7kroh.com/
「津軽塗後継者育成研修事業」とは、青森県漆器協同組合連合会が開催している津軽塗職人の後継者育成のための事業です。研修期間は3年半、漆の性質上、アレルギーと戦いながらの人も多く、3年半で規定の技法全てにチャレンジできない人もたくさんいるといいます。
小林氏は当初こそ工芸に対する苦手意識があったといいますが、すぐに慣れていき多くの技術を身に着けることが出来ました。もちろん、研修所では基本的なことのみだけを学ぶのですが、それでも小林氏は「勉強してみると色と塗り方で組み合わせが無限にあることを知って、とても奥が深い世界ということが分かりました」と語るように津軽塗に魅了されたといいます。
塗師として何が出来るかを常に自問する
乾漆 小判箱 ちらし唐塗 瓢箪 参照:https://xn--m7r74kb7kroh.com/
津軽塗の歴史は300年以上あると言われており、始まりは寛文年間の頃津軽藩において、産業開発のために興されたといいます。漆液の塗り・研ぎ・磨きは38~48回にも及び、俗に『馬鹿塗』とも称されるほど膨大な手間と時間を惜しみなく注ぎ込まれるため、一作品の完成まで実に3~6か月かかることもあります。小林氏は、この伝統ある工芸品の塗師として、何が出来るか、常に自問しているといいます。
アートではなく、商品として届けたい
三味線キーホルダー 唐塗 日常でも気軽に楽しめるアイテムです 参照:https://xn--m7r74kb7kroh.com/
「自分の作った漆器がお客様の手に渡った時のリアクションを見るのが楽しくて好きなんですよね」と語る小林氏。ほかの職人が見ても、素晴らしいと思えるものを常に製作したいと思っているそうです。津軽塗は表現方法も無限で、新しい手法も取り入れやすいそうで、伝統を受け継ぎつつも常に新しいことを考えられる工芸品と言えます。
ただ、自由な表現ができる一方で小林氏が考えるのは、「僕らが作るのはアート作品ではなくあくまでも商品なので、早く正確に、お客様の要望と時代にマッチしたものを作ることが大切だと思っています」ということ。あくまでも、消費者目線で製作する姿勢を鮮明にしています。
伝統として受け継ぎ、産業として復興させる
受注生産のスマホカバー 参照:https://xn--m7r74kb7kroh.com/
小林氏の目標は、津軽塗の伝統を受け継ぎながらも、産業として成り立たせることです。伝統工芸品は手間暇がかかるため、高額になります。しかし、飾っておくものではなく、実際に使用してもらうためのものだというのが小林氏の考え方です。
そして、伝統工芸でも、高価なものばかり製作していれば産業としては成り立ちません。「僕たちが作る工芸品も大量生産が必要なんです。津軽塗もろくろを使って一度に大量に作ることもあります。そうやって商品を売っていかないと自分たちの生計が立たないし。でも、そこでお金を得られる分、新しいものを作ったり、逸品を作ったりすることができるんですよ」と、小林氏が言うように、希少性だけでは産業として成り立つのは難しいのです。良いものを製作するのは大前提として、価格のグラデーションをつけていくっことも、これからの伝統工芸には必要となるのかもしれません。