問題解決と美しさを両立したデザインを実現する
阿部憲嗣氏 参照:https://www.japandesign.ne.jp/interview/lda2022-1/
阿部憲嗣氏は1990年、神奈川県の生まれ、多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻を卒業しています。電子機器からインテリアなどジャンルを問わず、さまざまなことにチャレンジする姿勢を鮮明にしています。特に意識していることは、「問題解決」と「美しさ」だといいます。今回は「海洋プラスチックゴミ問題」などからヒントを得た、捨てずに再利用できる新しい緩衝材「CY-BO(サイボ)」でレクサスデザインアワードのファイナリストになり、世界から注目される若きプロダクトデザイナー、阿部氏をご紹介していきます。
大学進学時にプロダクトデザインを志す
緩衝材「CY-BO(サイボ)」 参照:https://www.japandesign.ne.jp/interview/lda2022-1/
もともと絵を書くことが好きだったという阿部氏は、高校時代の美術教師から美術大学への進学を勧められ予備校にも通っていました。進路選択のために、オープンキャンパスで数校の大学を巡る中でシャープペンシルや自動車など、身の回りの製品をデザインする「プロダクトデザイン」という分野を知り、非常に興味を持ったといいます。特に多摩美術大学では、教授が情熱的に話しをしてくれたため、同校のプロダクトデザイン専攻に進学を決めます。
阿部氏は大学では多くのことを学びます。後に阿部氏がファイナリストとなるレクサスデザインアワードでも、大学の同級生が受賞、そのほか先輩や後輩なども広くデザイナーで活躍するなど、良好な環境でデザイナーとしての基本を学んでいったのです。
デザイナーとして重視すること
細長いハンドルのスペシャルパーツを組み合わせることでボトルホルダーやバッグにもなる 参照:https://www.japandesign.ne.jp/interview/lda2022-1/
「10年以上前からモノよりコトだと言われ、製品の形状よりもUX(ユーザー・エクスペリエンス)が大事だと言われ始めている。でも、それらを尊重した上でも、製品としてのクラフトの部分、美しさの部分を大事にしたい。なぜなら美しくなければ製品として世の中に浸透しないから」と語る阿部氏。UXとは、ユーザーがいかに使いやすいか、楽に使用できるかということ。つまり、「問題を解決する」デザインは重要だが、それとともに「美しさ」も持つ必要があるというのです。
阿部氏は「アップルの製品などが世界的な成功を収めているのも、こうしたデザインがしっかりとできているから」とも語り、デザイナーとして一番重視をしていることだと言っています。
環境を意識した緩衝材「CY-BO(サイボ)」
雪の結晶のような形状のピーズ 参照:https://www.japandesign.ne.jp/interview/lda2022-1/
「CY-BO(サイボ)」とは、捨てずに再利用できる新しい緩衝材です。ピースの組み合わせでできた緩衝材が、利用後はバラバラにして組み直すことで花瓶やバッグ、カーテン、小物入れ、照明のシェードまでさまざまなモノに生まれ変わって再利用できるのです。阿部氏はこの作品でレクサスデザインアワード2021にて入賞を果たしています。
海が好きだったから。自然がくれたヒント
インテリアに馴染む美しいダンベル 参照:https://kenjiabe.com/mantle
阿部氏が「CY-BO(サイボ)」を思いついたきっかけは、大好きな海洋生物が苦しめられている「海洋プラスチックゴミ」問題でした。そして、この問題で心を痛めていたときに目に止まったのが、配送などに使用される「緩衝材」だったのです。
調べてみると、緩衝材は日本だけでも1日1200平方キロメートルも製造されており、さらにコロナ禍による増産もおこなわれていました。この「緩衝材」のリサイクルを試みたのが、「CY-BO(サイボ)」です。そして、各パーツを組み直すときにヒントを得たのは「細胞」でした。海の生物を守るためのヒントが海の生物からもたらされる、自然を守るためのデザインに自然がヒントをくれたのです。
無限の可能性を秘めるデザインとして
花器とフルーツボウル、2つの機能を持つデザイン 参照:https://kenjiabe.com/mantle
「CY-BO(サイボ)」はブラッシュアップを重ねながら現在も進化しています。環境負荷を少しでも軽減するものとして、無限の可能性を秘めたアイテムとも言えるでしょう。
阿部氏は「CY-BO(サイボ)」だけではなく、機能性と美しさを両立させたデザインを多数実現させています。例えばインテリアとの融和性も考えられたダンベルや花器とフルーツボウル、2つの機能を持つデザインなど、個性的なデザインを意欲的に発表しています。まだ若い阿部氏が、これからのデザインマーケットでどのような活躍をしていくか、多くの人が注目しています。