17歳で出会った「加賀象嵌」の世界
笠松加葉氏 参照:http://www.kasamatsukayo.com/about/
笠松加葉氏は1981年石川県金沢市の生まれです。大学進学で悩んでいる時に加賀象嵌の人間国宝である中川衛氏を紹介され、加賀象嵌の魅力を知ることになります。その後は、加賀象嵌作家になることを目指して、金沢美術工芸大学美術工芸学部工芸科彫金コースに進学。在学中から伝統工芸日本金工展に入選するなど、現在まで多くの受賞歴があり、全国で展示会も催しています。今回は伝統工芸に新しい風を吹き込む女性加賀象嵌作家、笠松加葉氏をご紹介します。
「福岡県特産民芸品」を製造する創業240年の工房
制作の様子 参照:https://meipro-newworld.tokyo/?mode=f13
笠松氏が加賀象嵌の世界に入ったのは17歳の頃でした。もともとアクセサリーやカトラリーなど金属製品が好きだったため、大学進学の際にデザイン系に進むか、実際に制作する工芸系に進むか悩んでいたそうです。そのときに紹介されたのが、加賀象嵌の現人間国宝・中川衛氏でした。
中川氏の話しを聞くうちに、「悩みの霧が晴れ自分の進む道がまっすぐと見えたような気がした」という笠松氏は、地元に伝わる伝統工芸への道を歩み始めます。
石川県の希少伝統工芸である加賀象嵌
魚子象嵌髪飾「変わり市松」 参照:http://www.kasamatsukayo.com/about/
加賀象嵌の歴史は古く、16世紀に加賀藩の前田家が京都より職人を招いた事で伝わった技法といわれています。現在日本国内で受け継がれている金属の象嵌は京都府の京象嵌、熊本県の肥後象嵌、そして石川県(富山県)の加賀象嵌と三つです。
京象嵌と肥後象嵌は本体部分(胎)に鉄を使用し、布目象嵌という技法により金銀で模様を描きます。それに対して加賀象嵌は色金と呼ばれる日本固有の伝統金属を使用し、平象嵌という技法で模様を描くことが大きな特徴となっています。また、デザインから製作まですべての工程を一人の作家がおこなうため、作家の個性が全面に出ることも加賀象嵌の魅力です。笠松氏は、このようなほかにはない希少な工芸品製作に魅了されたのでしょう。
伝統工芸に新しい風を
象嵌ネックレス「たますだれ」 参照:http://www.kasamatsukayo.com/about/
笠松氏は金沢工芸大学を卒業後、2010〜2011年(公財)宗桂会運営月浦工房所属、2015年卯辰山工芸工房修了。伝統工芸日本金工展、石川の伝統工芸展、金沢市工芸展などに多数入選しています。伝統技術にこだわりを持ちながら、現代的な新しい風を吹き込んだ作品に定評があります。
使用することで初めて価値が生まれる
魚子象嵌ブレスレット「釦」 参照:http://www.kasamatsukayo.com/about/
笠松氏が作品づくりで一番大切にしていること、それは美術品ではなく使用してもらう工芸品として製作すること。「工芸品は使用することで初めて価値が生まれると考えている為、作品単体で完成するのではなく、鑑賞者(使用者)の想いも込められるよう余白を持たせるように意識しています」と語ります。
加賀象嵌というと、敷居が高く感じる人も多いかもしれません。しかし、笠松氏は、工芸品の美しさを表現しながら、使用する人が日常生活に取り込み、楽しんでもらえることを目標としているのです。
作品自身が魅力を語ってくれるように
魚子象嵌ブローチ「UFO」 参照:http://www.kasamatsukayo.com/about/
加賀象嵌の道に入って20年以上経過した笠松氏。作品の完成度を上げることで、作者が多く語らなくとも作品自身が魅力を語ってくれるようになることが理想だと言います。
もちろん、作者がなにも語らないということではありません。「想いをきちんと伝え、更により多くの方に伝える役割を担ってくださる方、そしてそれを販売してくださる方、何より購入し生活に取り入れてくださる方、それぞれが影響しあい、成長できるような社会になればと願っております」と、語るように、加賀象嵌という素晴らしい工芸品を多くの人が関わり、後世に残していくことを目的としているのです。
現在では若手作家の育成にも力を入れている笠松氏。後輩作家とともにワークショップなども立ち上げて、加賀象嵌の魅力を全国に発信しています。