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日本のものづくりデザイナー48~茶筌師「見習い」 谷村 圭一郎(たにむら けいいちろう)

新たな茶筌の魅力を発信する若き夫婦の挑戦


谷村圭一郎氏と妻のゆみ氏 参照:https://www.narakko.jp/yomiweb/nature171/

茶筌(ちゃせん)とは、茶道で抹茶を点てるときに使用する道具で、茶碗の中で抹茶をかき混ぜるために使用します。この茶筌の一大産地として、国内生産量の9割以上を占めている地が奈良県の生駒市高山町という地域です。この地で生産されたものは「高山茶筌」の名で知られています。ただ、現代では茶筌の需要は減少しており、後継者不足なども重なって危機感を感じている関係者も多いのが現状です。そのような状況の中、今回は家業を継ぐことを決意し、妻とともに茶筌の新たな魅力を伝えようとしている谷村圭一郎氏にスポットを当ててご紹介していきます。

故郷への恩返しのつもりでUターン


茶筌づくりの工程 参照:https://www.narakko.jp/yomiweb/nature171/

谷村氏は1986年奈良県高山町の生まれです。実家は1908年創業の茶筌製造企業『翠華園 谷村弥三郎商店』。この企業の当主は代々『弥三郎』を襲名しており、現在は父である佳彦氏が当主を務めています。
谷村氏は高校を卒業後にアメリカへ留学、帰国後は神戸の企業で働いていましたが、5年ほど前に「代々受け継がれてきた家業を継ぐことで地元に恩返しをしたい」と思い立ち、妻のゆみ氏と共に故郷へUターン。現在は父である佳彦氏の元で「見習い」として修行を続けています。
この「見習い」というのは、まだ十分な経験がないといううことももちろんですが、多くの年齢層、そして海外にも茶筌の魅力を発信していこうと考えたもの。SNSでは「茶筌師見習いと嫁」として発信しています。この試みにより、顧客との距離も縮まって、さまざまな意見なども寄せられるようになったと言います。

高山茶筌について


伝統的な茶筌「弥三郎作煤竹白竹2本桐箱入」 参照:https://www.yasaburo.com/products/%e4%b8%83%e8%89%b2%e8%8c%b6%e7%ad%8c/

高山茶筌の歴史は古く、約500年前までに遡ります。室町時代中期、高山領主の次男・宗砌が茶道の創始者である、村田珠光(むらたじゅこう)の依頼によって作ったのが始まりとされています。国指定の伝統工芸品として伝統の技を伝えており、1975年前後には50軒近くの茶筌業者があったといいます。
しかし、その後は茶道人口の減少が続き、職人の高齢化問題やコロナ禍での茶会を控える傾向などともあり、現在の業者数は18軒程度となっています。
そこで、谷村氏が目指したのが、前述のSNSなどを使用した発信と、新たな層にもアピールできる斬新なデザインの茶筌ブランドの立ち上げでした。

「茶道をしない人」に提案する茶筌ブランド「SUIKAEN」


結婚式などお祝いの贈答用に白と銀をあしらった「環-Tamaki-」 参照:https://www.narakko.jp/yomiweb/nature171/

谷村氏が提案する新しい茶筌ブランドは「SUIKAEN」。家業である『翠華園 谷村弥三郎商店』の名称を汲んでいます。その名称には、次のような思いが込められています。「茶筌も茶道も、お客様は大きく二つに分かれるんです。する人、しない人。イエスかノーか。イエスの人たちへのアプローチは今までのブランドで、ノーの人たちへのアプローチは英字で。敷居の高さをなるべく亡くしたいと思います」。

当初父は反対だったが……


市松模様の茶筌 「縁 -En-」 参照:https://nara-tabikura.jp/2219/

しかし、父である佳彦氏は谷村氏が新ブランドの立ち上げを模索しているのを知り、反対の姿勢を見せます。反対理由は、「日本ではサミットなどで海外の要人に対し茶をもてなす。ゆえに『お茶は国際的に見ても最大限フォーマルでなくてはいけない』という考えがあり、それを崩すことで、家元や茶道家が長く守ってきた格式を落としてしまうと考えていました」というもの。
ただ、次第に谷村氏の真摯に取り組む姿勢に意見を軟化、現在ではブランド名をローマ字表記として一線を画すことを条件に立ち上げを認め、活動を見守っています。

伝統を守りながらも、斬新なデザインを


さまざまな色のチャームをあしらったもの 参照:https://nara-tabikura.jp/2219/

「SUIKAEN」の特徴は、茶筌の伝統的な製法を守りながらも幅広い年齢層や、海外にもアピールできるデザインです。例えば、黒や白が定番だった穂編み糸に赤や青などカラフルに染めた糸を使用し、市松模様や縞模様を表現したものや、白と銀をあしらったものなど。
「編み糸以外、茶筌の作り方は一切変えていないし、海外の大量生産物ではない本物だからこそ、価格も安くありません。納得して購入いただけるよう、WEBミーティングで茶筌の知識や生産の背景、作り手の思いを全て伝えた上で購入を決めてもらっています」と谷村氏が語るように、「本物」にしか感じられない凛とした優雅さが買い手にも伝わってきます。プレゼントや、大切な記念日にお茶を点てるなど、用途も様々。今後、茶筌の静かなブームが到来することがあるかもしれません。

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