多様な革作りの鞄を手作りで生み出し、人気を集めているブランドの一つに「イルビゾンテ」がある。
この言葉は「水牛」を意味しており、製品に刻印されるバッファローマークはトレンドマークとして有名だ。
ブランド名の由来は、決して水牛の革だけを扱っているからではなく、創設デザイナーのワニー氏が、水牛の姿に誇りと力強さを見出したからだと言われている。
彼が水牛から得たインスピレーションを別の言葉で解釈するなら「確固たるクオリティ」という表現になるだろう。
あなたを含めた顧客が手にして「いつまでも使い続けたくなる」鞄だからこそ、ブランドイメージが成立するという、実直な自己評価に基づいている。
職人の仕事の評価も高いイルビゾンテは、職人の手作り鞄がモノを大事にするユーザーからなぜ必要とされるのか、真の理由を知っている。
今回は、ブランドの歴史・商品の豊富さの理由など、イルビゾンテの内側から手作り鞄の普遍的な魅力を探ってみたい。
イルビゾンテは一人のデザイナーから始まった
イルビゾンテの創始者は、イタリア・ヴェネツィアで生まれた一人のデザイナーである。
名を「ワニー・ディ・フィリッポ」と言う。
イタリアは芸術的センスに優れた工芸品を数多く輩出しており、ヴェネツィアも魅力的な製品を数多く世に送り出している。
特に、ムラーノ島の「ヴェネツィアン・グラス」は世界的に有名だ。
そんな格式高いセンスが息づいているヴェネツィアにおいて、ワニーが工芸に魅力を感じるようになるのは、必然だったのかもしれない。
車に関する販売業の傍ら、バッグ作りや芸術に関する技術・知識を学び、1970年に店を持つまでに至った。
このとき名付けた「イルビゾンテ」は、その名に恥じぬクオリティの高い鞄を世に送り出し、イタリアから全世界に商品が広まっていった。
やがて、ワニー氏は鞄技術を応用し、革小物・アクセサリー・靴などの製品も製作するようになる。
まさか本人も、遠い異国の地・日本で人気を集めることになるとは思いもしなかっただろう。
鞄の種類の豊富さは、媚びではなく「愛」
鞄をはじめとする革製品のラインナップが多いことに対して、あなたはどう感じるだろうか。
ひょっとしたら「お客に媚びている」などと考えている人もいるかもしれない。
かつてのデパートなどに代表される「大量生産」のスタイルは、一定のニーズを満たすことには成功した。
モノがない時代には、とにかくモノがあることが重要で、誰もが同じものを持っていることが、当たり前の時代だった。
ハンドメイドの価値が理解されず、既製品を持つことがステータスになるという、よく分からない風潮がかつての日本にもあった。
しかし、「みんなと同じこと」が求められる時代から、「みんなとは違うこと」が求められるようになると、どうやって違いを主張すべきか戸惑う人も増えてきた。
イルビゾンテが意図したものとは違っていただろうが、このような潜在ニーズに応えるかのように、ブランドとして幅広いデザインのバッグを発表した。
同じ「ショルダーバッグ」というくくりではありながら、収納力・デザイン・色などさまざまなバリエーションが用意され、買い手の心をつかんでいった。
あなた好みのバッグを、あなたの意思で選べる。
当たり前のことのようで、手間のかかる革製品では、なかなか実現できるブランドは少ないのである。
それを実現したイルビゾンテには、間違いなくユーザーに対する「愛」があったのだろう。
「あなただけのもの」を表現する革作り
革製品は、時間とともに風合いを増していくものだ。
イルビゾンテは革のそんな性質を理解し、革にある細工をしていた。
それは「環境の影響を受けやすい」革を作ることだ。
このように聞くと、直観的に「?」マークを頭に浮かべる人も多いと思う。
なぜなら、本来革というものは、どれだけ環境から受けるダメージを軽減できるかが勝負だからだ。
高級ブランドの査定時もそうだが、経年劣化がプラス評価されることは、残念ながらほとんどない。
同じライン・同じ大きさ・同じブランドで比べたとき、悲しいかな新しい鞄の方に高値が付く。
それなら、革が極力新品に近い状態を保てる方が、モノの価値は高くなるはずである。
しかし、イルビゾンテというブランドは、そんな見た目だけの話で決まる価値には目もくれなかった。
ワニー氏は、自分の作ったバッグをどう使って欲しいかについて、こう語っている。
<以下引用>
「雨が降ればどちらも濡れ、晴れればどちらも日にあたり、あなたが日焼けすれば、バッグも日に焼けます。
あなたのイルビゾンテはあなたの一部になるのです。」
<引用終わり>
※出典元:https://www.ilbisonte.jp/about/
彼は、バッグをも自分の一部として欲しいという、こだわりを持っていた。
自然由来の素材にこだわり、革が日に焼け雨に濡れればどうなるか、そのまま答えを出してくれる素材を使いたかったのだ。
その結果、自分が過ごした時間に応じて革の状態も変わり、革に刻み込まれた汚れやシミそのものが、自分自身の人生を表現するものになる。
知らず知らずのうちに、鞄はあなたのものになっていくのだ。
鞄は、あなたによって憶えられたい
「あなたは、何によって憶えられたいのか」
著書「マネジメント」で有名な、ドラッカー氏の有名な一言だ。
答えは、人それぞれだと思う。
しかし、もし仮に鞄に意思があったなら、きっとこう答えるだろう。
「私は、あなたによって憶えられたい」と。
理由は簡単。
他ならぬ持ち主は「あなた」だからだ。
毎日手作り鞄を作る職人は、鞄のそんな意思を知っている。
だから、誰の手にわたっても愛されるよう、心を込めて制作に取り掛かる。
モノを大切にするユーザーも、もし自分が使わなくなったとき、この鞄を誰が使ってくれるのかと、きっとこんな風に心配するのだろう。
「こんなにボロボロになるまで使ったんだから、もう少し使ってみよう。」
自分のそばに、自分だけの鞄がある幸せを知っている、優しい人だと思う。
あなたには、そんな鞄、あるだろうか。