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あなたの知らないガラスの世界、私たちのとなりにあるガラス製品の謎①

ガラスとは何か?その正体と歴史


出典:https://www.gizmodo.jp/2017/10/solid-liquid-glass.html

私達の身近に存在するガラス。その美しさから古来よりさまざまなかたちで利用されてきました。一方では、人類が使用してきた長い歴史があり、現在もこれだけ多くのガラス製品があるにもかかわらず、実は「ガラス」というものの特性は近年になってからようやく解明されてきたのです。ガラスの世界を知る第一歩として、「ガラス」という物質について、そしてガラスを利用した工芸品の歴史を見ていきましょう。

不思議な物質「ガラス」について

私達の周りには、さまざまなガラス製品があります。窓ガラスもありますし、インテリアとしてガラス工芸品や照明などにも使われています。また、現在では電子部品の一部としても使用されています。
そして、もちろん、私達は金属や木材と言った素材と同様に、ガラス製品を手に取って見ることができます。しかし、「ガラス」は他の素材と大きな違いがあるのです。それは、固体ではなく「液体」だということ。これは、高温で溶かして加工するときの話ではありません。今、私達の隣りにある、手を触れることができるガラスも「液体」だということです。
少しむずかしいですが、固体という定義は、分子が規則正しく並んでいる「結晶化」が前提です。ところが、ガラスという物質は結晶化しておらず、ランダムに分子が並んでいる状態で、「動きが止まった液体」と言えるのです。
水のように氷(固体)、水(液体)、水蒸気(気体)と変化することを「相転移(そうてんい)」といいますが、ガラスという物質は「ガラス」という新しい形態(相)ではないかとも考えられています。また、その他にもガラスは「液体」なのになぜ割れるのかなど、物理的に謎に包まれている部分が多く、非常に興味深い物質です。もし、研究が進んで、ガラスの謎が解明されれば、現在以上に加工もしやすくなるかもしれませんし、ガラス工芸の世界でも技術が進歩して、いままで見たこともないような作品が生まれることになるかもしれません。

紀元前から愛されていたガラス


ローマ時代のガラス 出典:http://www.city.shimonoseki.yamaguchi.jp/bijutsu/collections_cr.html

先に述べたように、ガラスの歴史は非常に古く、紀元前4000年頃、現在のイラクの一部に興った古代メソポタミア文明に遡ります。現在でもガラスの原料として使用される二酸化ケイ素を使用していて、ガラス製品をつくるというよりも、陶磁器の製造に伴い使用されたと考えられています。当時の加工技術では透明なガラスをつくることはできなかったようで、遺跡からは不透明なものが多く出土しています。また、古代文明でも、ガラス製品は人気が高かったようで、「ガラス職人」が存在していたと考えられています。ガラスの制作には高温の火力が必要ですから、ガラス職人たちは燃料となる木材を求めて森林地帯を転々としたという説もあります。
古代文明の進歩とともに、ガラスづくりも技術革新を繰り返していきます。紀元前2000年頃のエジプト文明では、ガラス原料の融点を下げる添加物が見つかり、いままでの焼き付ける「焼結(しょうけつ)」技法から、溶かして加工する「溶解」技法に転換しています。その結果、鋳型に流し込んで食器などをつくる「鋳造(ちゅうぞう)」が開発されます。
また、現在もポピュラーな技法である「吹きガラス」が開発されたのも紀元前1世紀ころのエジプトでした。このようなさまざまな技法は、エジプトからアジア、中東地域に広がります。特に重要なのは、当時大きな勢力を持っていたローマ帝国です。エジプトから伝わった大量生産技術を使い、「ローマガラス」と呼ばれる絵や装飾が施されたグラスや食器、装飾品などを約500年間に渡って製造し続けたのです。
そして、5世紀頃には、いままで丸みを帯びたものしか製造できなかった製造法に、平坦な「板ガラス」が製造できる技術が開発され、ガラス工芸も大きく進歩していきます。

中世にかけて発達したガラス工芸

8世紀頃からは、現在の中東地域にあたるイスラム圏で盛んにガラス工芸品が製造されます。ガラスをカットする装飾技術も確立して、それが東ローマ帝国に伝わります。一方、西ヨーロッパではローマ帝国の衰退によってガラス製造は滞っていましたが、徐々に製造が盛んになります。12世紀から13世紀にかけては、キリスト教の普及とともにゴシック調のステンドグラスなどが多くつくられるようになっていきました。
16世紀になると、ガラス製造技術は大きく進歩して、無色透明なガラスがヨーロッパ各地でつくられるようになります。その産地はドイツやボヘミアなど、現在でもガラス製品の名産地として知られている地域です。
その後、産業革命を経たガラス製造は近代化をたどり、工業製品への応用が本格化していきます。一方で、ガラス工芸でも、技術進歩が続き、アール・ヌーヴォーの影響を受けたエミール・ガレなど芸術性の高いガラス工芸が高い評価を受けるようになり、現代のガラス工芸にも受け継がれていくのです。

日本におけるガラス工芸の歴史


江戸時代のガラス 出典:https://www.dogo-yamanote.com/gardenplace/museum/history.html

日本でも古くからガラス製品が存在していたことがわかっています。最古のものは紀元前1世紀頃のガラスビーズが確認されていますが、日本で作られたのか、海外から持ち込まれたのかは不明です。いずれにせよ、1世紀頃には国内でもガラスが製造されていたことはわかっています。
ただ、その後の時代に確認されるのは中国大陸から輸入されたガラスが多く、国内ではほとんど製造されていなかったようです。その停滞したガラス製造が復活したのは、遥かに後の1600年代、江戸時代からとなります。
ヨーロッパなど中国大陸以外の国との交流が始まった時代、ガラスの製造方法やカット技術はオランダから伝来したと言われています。それが国内で根付き「江戸切子」や「薩摩切子」など、日本独自のガラス工芸に変化していったのです。また、日本のガラス工芸で「切子」と肩を並べる技術として、同時代に確立されたのが「吹き」の技術です。江戸時代はカットされたガラスのことを「ぎやまん」、吹き製法で製造したガラスを「びーどろ」と呼んで珍重していました。その伝統的な技法は、現在でも多くのガラス職人の手によって受け継がれています。

ガラス工芸の技法

ガラスの加工方法にはさまざまな技術があります。それぞれの技法によって、ガラスには多くの表情が生まれ、人々を魅了する芸術品となります。この章では、代表的なガラス工芸の技法を紹介していきます。

カットグラス

世界中で人気のあるカットグラス。日本では後にご紹介する「江戸切子」や「薩摩切子」が有名です。さまざまな模様のパターンがあり、グラインダーでカットする目の粗さを繊細に変えながら、熟練の職人が丁寧にカットをしていきます。

エッチング


出典:https://www.sanshiba-g.co.jp/column/kisochisiki/surface.html

エッチングとは、薬品を使用してガラスを腐食させることによって模様を描いてゆく技法です。エミール・ガレなど、アール・ヌーヴォー期の作家が多用していたもので、精巧な人物像なども描くことが可能です。

サンドブラスト


出典:https://kankotaiken.kiyamanet.com/exp.php?id=29

砂を吹き付けることによって、ガラス表面を荒らしてすりガラス状にする技法です。もともとは金属などに付着した錆を落とす研磨のために開発された技術です。ガラス工芸では、くり抜いた文様の型をガラスに貼り付けて、ブラストをかけることによって文様を描きます。

パート・ド・ヴェール


出典:https://www.creema.jp/item/6236629/detail

こちらは、ガラスの加工ではなく、ガラス製品そのものをつくる技法です。鋳型を使用して、ガラス粉を入れて焼成する技法です。繊細な色の表現などができて、陶器のような仕上がりとなります。現代ではガラス工芸用の小型電気炉などもあるので、個人のガラス工芸作家でも創作できるようになっています。

ブローイング


出典:https://www.tgai.jp/fukiglass.php

「吹きガラス」とも呼ばれる技法です。高温に熱したガラスを中空金属管の先端に巻取り、息を吹き込むことで成形します。「宙吹き」という型を使用せずに空中で成形していく方法と、「型吹き」といって、金型などの中で息を吹き込む方法があります。

バーナーワーク

ガラス工芸の基本とも言える技法です。紀元前4000年頃にはすでに行われていたとも考えられています。バーナーでガラスを熱することによって自由に形を作っていきます。とんぼ玉やアクセサリー製作など、汎用性の高い技法です。

キルンワーク


出典:http://tabataglass.tokyo/kilnwork/index.html

電気炉で組み合わせたガラスを加熱して接合したり形を作る技法です。パート・ド・ヴェールはガラスの原料を加熱してガラスを作りますが、キルンワークは、ガラスを加工する技法となります。

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