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これがないと生きていけない!あなたに時刻を教えてくれる、時計の世界を知ろう~後編~

時計職人の世界は、資格制度や徒弟制度などで成り立っている


前編でご紹介したように、時計は人類が誕生して以来、不可欠なものとして存在してきました。そして、時計にはさまざまな種類がありますが、なかでも時計職人が活躍しているのが「機械式時計」です。それを支える時計職人とは、どのような職業なのかをご紹介していきましょう。

時計修理のエキスパート「時計修理技能士」

時計職人の技術習得を目的として、日本では「時計修理技能士」という国家資格が設けられています。時計製造ではなく、主に修理に関わる資格という位置づけです。日本では、機械式時計の製造をおこなっているメーカーは非常に少ないですが、海外ブランドの高級機械式時計のオーバーホール需要は高い傾向にあるためだと思われます。

時計修理技能士は、実務経験が6ヶ月以上で受験できる3級から、7年以上の実務経験が必要な1級まであり、機械式時計からクオーツ式まで幅広い修理技術の知識が必要とされています。

豊富な知識と技能を評価する国家資格ですから、時計修理技能士であれば時計の扱いに慣れている職人だと言えるでしょう。

留学や弟子入りなどでも技術取得は可能

もちろん、時計修理技能士の資格を取っていなくても、腕の良い時計職人はたくさんいます。日本でも時計技術が学べる専門学校はありますが、非常に数が少ないようです。ですから、時計製造の本場であるスイスに留学をする人もいます。また、日本や海外の有名な時計工房に弟子入りして職人になる人もいて、いずれも、優れた技術で日本の時計産業に貢献しています。

日本が誇る時計メーカーの老舗「セイコー」がつくる機械式時計


画像出典:グランドセイコーHPより(https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/studio-shizukuishi/)

「セイコー」は、言わずと知れた国内の老舗時計メーカーです。創業は1881年、掛け時計の製造から始まり、懐中時計、そして1913年には国産初の腕時計「ローレル」を発売しています。また、クオーツ式では世界初の腕時計「アストロン」を1969年に発売するなど、日本のみならず、世界の時計産業を牽引してきた企業です。そのセイコーが2020年、機械式時計のみを生産する「雫石高級時計工房」をオープンさせたのです。

グランドセイコー60周年を記念してオープン

セイコーのなかでも最上級のブランドである「グランドセイコー」。そのブランド設立60周年を記念して、「雫石高級時計工房」は2020年の7月にオープンしました。

設計は国立競技場を手掛けた、隈研吾氏が担当。高級時計の工房にふさわしく、自然を感じながらスタイリッシュな雰囲気を持つ木造建築に仕上がっています。これは、自然との共生をテーマにした同ブランドのコンセプトと通じているのでしょう。

時計職人は息を止める

工房では、約60名もの時計職人が部品の製造から加工や組立、検査まで、一貫して生産する本物の時計工房です。機械式時計の部品数は、ときに200点以上にもなります。時計職人はその一つ一つの部品の役割を把握しながら、0.01ミリ単位、0.01グラム単位で加工していくのです。

特に重要なムーブメントの部分は、精鋭の時計職人が担当しています。ムーブメント部品の最薄で2ミリにも満たないものもあり、それを絶妙なバランスで組み立てて、時計に命を吹き込んでいきます。作業には常に緊張感がつきまとい、指先がブレることがないように、息を止めて作業をすることも珍しくありません。

出典:雫石時計工房HPより(http://www.shizukuishi-watch.com/index.html)

時計職人は仕上げにも手を抜かない

組み立てが終了しても、仕事はそれで終わりではありません。オーナーの手元に出荷するまでには、さまざまな検査が必要になってくるのです。動きがない状態の時計の精度はもちろんのこと、腕時計としては当然のことである腕に巻いたことを想定した精度もきっちりと測定していきます。そのほか、気温や姿勢の問題もクリアしておかなければなりません。もちろん、コンピューターを使用したシミュレーションも重要ですが、手作りの時計には、実測値を見ることのほうが重視されます。

名工の仕事を見学可能

雫石高級時計工房には、名工と言われる多くの時計職人が所属しています。岩手県雫石にある同工房では、完全予約制で一般の見学も受け付けています(2021年4月現在、新型コロナウイルスの影響により見合わせ中)。自然豊かな環境に囲まれた大きなガラス張りの工房では、時計職人たちが作業をしている姿を見ることができます。

エントランスホールでは、普段は見ることのできない、時計職人が使用する工具類を展示。また、機械式時計の心臓部であるムーブメント部分やそれらを構成する部品類も展示されていて、製造工程がわかるようになっています。普段は見ることができない、高級時計工房で、匠の技術を感じてください。

世界で認められている日本の時計職人


セイコーの雫石高級時計工房は、有名メーカーの大規模な工房でした。もちろん、ロレックスやパテックフィリップなど、海外にも時計工房はあるのですが、もっと小規模に、ときには一人だけで時計を作っている場合もあります。その代表的な時計職人が「独立時計師」と呼ばれる人々です。

世界で数十人しか所属していない「独立時計師アカデミー」

「独立時計師」とは、前述した「時計修理技能士」といった資格の名称ではありません。世界的な組織である「独立時計師アカデミー」に所属している時計職人だという意味で使われることが多いようです。

世界的な組織と言っても、入会の基準は非常に厳しく、会員の推薦が必要なこと、世界的な時計見本市に新作を出展することなどが必要となります。その時点でも準会員で、正会員になるためには2年連続での新作発表と、全会一致の承認が必要となります。2020年現在の会員数は正会員が29人、準会員が7名という狭き門なのです。

会員の国籍は、やはり時計の本場であるスイスが10人と一番多く、ドイツやフランスなど、西欧諸国が多いです。アジアからは中国と日本のみが会員のいる国で、日本では正会員が2人、準会員が1人となっています。それぞれの日本人会員について、その製作コンセプトなどをご紹介していきましょう。

和を意識した時計づくり、菊野昌宏氏

日本人として初めて独立時計師アカデミーの正会員になった菊野氏。正会員になったのは、なんと弱冠30歳のときでした。自衛官だったという異色の経歴もあり、メディアなどにも出演しています。

自衛官時代に時計の魅力に気がついた若き天才は、除隊後に日本の時計専門学校で学びます。そして、卒業後に彼の時計づくりに大きな影響を与えたのが「和時計」でした。

江戸時代に製造された「万年時計」の復元プロジェクトに参加し、その精密な仕様に魅了されると、独自のムーブメントを持つ腕時計としての「和時計」を製作して、注目を浴びることとなりました。

それ以来、菊野氏は「和」をコンセプトとして、独自の機械式時計を製作しています。

超複雑な機構を構築する浅岡肇氏

もう1人の正会員は、2009年に超複雑な機構である「トゥールビヨン」を搭載した腕時計を発表した浅岡肇氏です。 トゥールビヨンとは、フランス語で「渦」という意味で、時計の姿勢によるズレを修正する機能を持つものです。

トゥールビヨンは機構の一部を回転させるため、非常に複雑になるということです。部品の点数が増え、一つ一つの部品に高精度が要求されます。それを日本人として初めて発表したことで、世界から注目を集めたのです。

浅岡氏の時計づくりは、ムーブメントの設計はもちろんのこと、文字盤の製作まで自身で手掛ける「完全なマニュファクチュール」とよばれるもの。ブランド企業ではおこなわれますが、時計職人が1人でおこなうのは世界でも数人だと言われています。また、受注生産だけではなく、市販品の製造もおこなっているのも注目点です。

2019年に独立時計師となった注目の時計職人

牧原大造氏は、2019年に準会員となった注目の時計職人です。同氏が製造する機械式時計の大きな特徴は、「彫金」です。

通常、時計づくりと彫金は別物で、彫金は専門の職人に依頼するのが普通ですが、牧原氏は両方とも自分でおこなっているのです。自分で治具も製作をして、美しい彫金を丁寧に彫り上げていきます。それは、日本に伝わる技術をアレンジしたもので、

伝統工芸と同じく、手作業にこだわっています。

丁寧に、1人で作業をおこなうことにより、「手作業でしか生み出せないもの。手作業だからこそ存在価値のあるものは必ずあります。(牧原氏HPより)」という言葉が実現するのでしょう。

時計は時を知る道具であり、芸術品でもある


時計は、人類の進歩とともに発展してきた重要なアイテムです。生活の一部としてなくてはならないものでありながら、その存在さえ意識しないこともあるほど、生活に密着したものでもあります。

現代では、クオーツやデジタル、スマートウォッチなど、さまざまな種類の時計があり、安価で非常に正確、多機能な時計も手に入ります。

しかし、一方では現在でも機械式時計は製造されていて、多くの愛好家がいます。時計の魅力は、正確であることももちろんですが、ムーブメントの精密さやメーカーやその時計自体の歴史などが積み重なって醸成されているからです。

また、時計には、「時を司る」というイメージがあります。特に西洋では時を神格化した「クロノス」という神の伝承も残っています。それだけ、「時」や「時計」には特別な感情があり、人々はその神秘的なイメージを文学や芸術品のモチーフとしてとして使用してきました。そう考えれば、時計職人とは、ある意味、「時」に関連したアーティストと言っても良いかもしれません。

みなさんも、珍しい時計の情報や時計の匠に関する情報がありましたら、ぜひ、ご連絡ください。

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