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人形の歴史
世界各国で愛されている「人形」。子供のおもちゃや飾って楽しむ高価な物など、人形と一口に言ってもさまざまなものがあります。人形を見たことがない、という人はほとんどいないでしょう。人形の作成は古くは先史時代から始まり、今に至るまで世界中で作られています。
最初は信仰の対象として存在していましたが、平安時代に入ると貴族階級の間で「ひいな」という子供用の人形が作られはじめました。これが後の「雛人形」になります。最古の人形は紀元前のエジプトで作られていたもので、その歴史はかなり長いのです。
雛人形をはじめとする伝統行事にも人形が使われ、人形劇のような娯楽にも使われる人形。その他にもおもちゃや芸術作品など、人形は人の生活に馴染んだものになっていると思います。
愛玩用の人形が作られたのはギリシャ・ローマ時代で、19世紀にはヨーロッパを風靡した観賞用の衣装人形、個人の芸術性を志向した創作人形、風俗をおり込んだ世界各地の民族人形などがあり、様々な役割をもった人形が登場しました。
現在の形の人形が「にんぎょう」と呼ばれはじめたのは江戸時代のことで、この頃から人日本国内での人形の需要が高まってきました。そして人形の製作技術もこの頃から発達しはじめ、より精密で精巧な作品が作られるようになっていきます。
欧米風のいわゆる「ドール」が日本で主流になってきたのは明治期で、大正期から昭和期にかけてセルロイド人形が流行しはじめました。
日本独自の人形
日本の人形と言っても、色々なものがあります。東北の温泉地で生まれた「こけし」や福島生まれの「赤べこ」、縁起物の「起き上がり小法師」などその種類は多種多様。先述した「雛人形」も日本人形の一つです。
現代における人形は、愛玩具をはじめ、節句などの伝統行事や祭祀に用いられるもの、人形浄瑠璃などの芝居に用いられたり、美術品や工芸品として鑑賞されるものなど種類も幅広くあります。
ここでは、日本人形の代表的な作家を紹介したいと思います。
紙塑人形の創始者「鹿児島寿蔵」
出典:南の魚座 福岡短歌日乗
鹿児島寿蔵さんは昭和期の人形作家で、紙塑人形の創始者と呼ばれています。有岡米次郎さんに師事し、博多人形製作を学びます。当初はテラコッタ風の手捻り人形を作り、1932年、粘土のかわりに紙を生麩糊で練って制作する「紙塑人形」を創始しました。1954年には日本工芸会の正社員となり、常任理事や人形部会長を務めます。1967年に紫綬褒章、1973年に勲三等瑞宝章を受章しました。
鹿児島寿蔵さんの作品はなんと言っても素材を活かした美しさにあると思います。生麩糊の素朴なテイストに和服の煌びやかさが映え、特に金の質感は創始者らしい独特な輝きを持っています。着物の複雑な柄や曲線美は鹿児島寿蔵の個性が光っていると思います。そして表情は優しく穏やかな雰囲気ながら、日本人形らしい細めの切長な目に白い肌、朱の乗った唇がどこか美人画を彷彿とさせます。
女性や子供など色々なモチーフを作っていますが、どれも一つ一つに個性があり、例えば子供は穏やかであどけない表情をしていたり、女性は凛々しくも儚い雰囲気を醸し出しています。
繊細精緻な技が冴える鹿児島寿蔵さんの紙塑人形。東京国立近代美術館などにも展示されているので、是非一度は見ていただきたい逸品です。
人間国宝「秋山信子」
出典:日本工芸会
https://www.nihon-kogeikai.com/index.html
1955年頃から人形作家大林蘇乃さんに師事し、桐塑・和紙貼・木目込等の伝統的な人形制作技法を学びました。1996年に重要無形文化財「衣裳人形」の保持者に認定されます。こうして、秋山信子さんは人間国宝として定められました。
秋山信子さんの作品は、本人が中国の少数民族などに興味があったことの影響を受け、中国や朝鮮の特徴ある作品を多数作り出しています。鮮やかな民族衣装を纏った人形たちはそのいでたちも美しく、琴を持っていたり何かを祈っていたりとポージングにも少数民族文化を感じさせられます。
筆者が特に好きなのは、木芯桐塑紙貼「秋の章」で、この作品は衣装の透明感や結われた女性の黒髪の流れが特に印象的です。水色をベースとした衣装に白が映え、秋の涼しげな空気を漂わせています。
桐塑布紙貼「鼓楼情景」は、家族の温かみのある作品に仕上がっています。二胡を手にした父親と子供を抱いた母親の優しい目線が子供に注がれていて、とても穏やかな気持ちになります。
海外から取り入れた人形「ドール」
ドール、というのは日本語で言う「人形」を英語にしたものですが、昨今ではドールというと西洋風の人形のことを指します。セルロイド製やビスク製などが多く、日本人形とは素材から違ってきます。見た目も日本人形とは大きく違い、大きめの目や通った鼻筋などが特徴です。
球体関節人形などは子供のおもちゃというよりは大人が飾ったりして楽しむことが多いです。日本でもドールというと少し値がはるため、大人向けの印象が強いです。
それでは、ドールの代表的な作家を紹介したいと思います。
シュルレアリズムを作り出す「恋月姫」
出典:MANDARAKE
札幌の美術専門学校で美術を学び、28歳の時に上京して人形作家業を始めた恋月姫さん。作品の特徴は、「シュルレアリズム」「耽美的」にあると思います。ドールは耽美な世界を持った作品が多い印象ですが、恋月姫さんの作品は特に耽美の傾向が強く、美しさと儚さを持っています。
子供の頃は美術が苦手だったのですが、ある日授業で自分の顔を粘土で作った時に立体物の美術に目覚めたそうです。サルバドール・ダリに影響を受けたと語り、筆者の目から見ても、その雰囲気は継承されていると感じます。アンティークドール自体は元々好きだったらしく、その中でも「アンティーク・ビスクドール」が好きだったそう。
恋月姫さんの作り出す人形は今にも動き出しそうなリアリティと、その前後の時間を想像させるような物語性があります。ドールメイクも本物の女性のような温かみがあり、それでありながらも人形的な冷たさを感じさせるものになっています。
球体関節人形の草分け「吉田良」
出典:ピグマリオン人形教室
http://pygmalion.mda.or.jp/news/news.html
吉田良さんは人形作家だけでなく写真家としても活動されている方です。見出しにもあるように、球体関節人形の草分け的存在と言われています。初期には「吉田良一」という名前で活動されていましたが、今は「吉田良」名義になっています。
東京写真専門学校(現在の東京ビジュアルアーツ)で美術を学び、その後独学で人形を作り始めました。今は自由が丘でドールスペース・ピグマリオンを設立しており、人形教室を主宰されています。人形教室も人気で、たくさんの人が訪れているようです。
人形制作を始めるきっかけとなったのは、ハンス・ベルメールや四谷シモンの作品との出会い。特にベルメールについては、「人形制作に於ける原点」と各所で発言しています。人形に「写真芸術」という道を切り拓き、のちに天野可淡さんの作品も撮影しています。
彼の作品の特徴は、その危うさ、一種の仄暗さにあると筆者は思います。美しくも何処か影を持ったような彼の作り出す球体関節人形は、恋月姫さんとはまた違った耽美さを持っています。
泉鏡花作品とのコラボレーションも行っておりましたので、こちらも是非見て頂きたいです。
球体関節人形で耽美を表現する「天野可淡」
出典:Amazon
https://www.amazon.co.jp/天野可淡-復活譚-片岡-佐吉/dp/404103728X
天野可淡は、創作球体関節人形で耽美な世界を作り出す人形作家です。女子美術大学在学中に人形製作を開始しました。ドールスペース・ピグマリオンで上記の吉田良さんとともに活動し、人形の魅力を広めていきました。
作品集も多数出していますが、現在はどれも入手困難な状況です。しかし、人形収集家片岡佐吉さんが所有している作品については、片岡佐吉さんがオーナーをつとめる人形博物館「マリアの心臓」にて展示されているため、見ることが出来ます。また、2010年に東京国立近代美術館に二体の人形が寄贈されているのでそこで実際に見ることも出来ます。
天野可淡さんの作品の特徴として、やはりその耽美さは語るに欠かせません。恋月姫さんや吉田良さんとはまた違った美しさをもち、退廃的な世界観は彼女の持つ特出した芸術的観念から生み出されています。見る者を圧倒するような世界観の強さには、筆者も初めて見た時には息をのみました。
現在では他の方と比べて作品を見ることが困難な彼女の作品ですが、足を伸ばしてでも見る価値は十分にあるでしょう。
個人でも作れる、フルカスタムドール
出典:PARABOX NETSHOP
https://paraboxshop.jp/index_ja_jpy_123.html
今は職人でなくても、自分好みのドールを作ることも出来ます。「カスタムドール」と呼ばれ、色々な企業がカスタムドールを作っています。
カスタムドールは、肌や目の色、髪の色や長さなど、さまざまなパーツを自分で選び、一体のドールを作り上げることができます。服装や頭身なども自由にカスタムできるので、世界に一つだけの人形を作れます。
出典:PARABOX NETSHOP
https://paraboxshop.jp/index_ja_jpy_123.html
「PARABOX NETSHOP」や「DOLK」など、カスタムドールを作れるサイトは増えてきています。もしあなたが自分だけのドールが欲しい!と思うのであれば、こういったお店もチェックしてみましょう!
出典:
https://paraboxshop.jp/index_ja_jpy_123.html