和傘を世界へ、公務員から職人の道を歩む
西堀耕太郎氏 参照:https://hiyoshiya.wagasa.com/about/profile/
西堀耕太郎氏は、1974年和歌山県新宮市生まれです。妻の実家である京和傘の老舗、「日吉屋」にて、その魅力を知り市役所勤めを辞職して、職人の道を歩むことを決意。2004年には日吉屋の五代目に就任しました。伝統的な和傘づくりの継承はもちろんですが、和傘の技術、構造を活かした新商品を積極的に展開。海外に向けても輸出をおこない、日本の素晴らしい伝統技術を広めています。
伝統的な仕事に関われることが、嬉しかった
西堀氏が和傘に興味を持ったのは、妻の実家が和傘の老舗だったということもありますが、根底には伝統的な仕事への興味もあったようです。まだ、結婚をする前に京都で番傘と出会い、そこから市役所での通訳という職を辞して職人への道を選択した西堀氏。そのときの気持ちを次のように語っています。「振り返ってみると不安もありましたが、ただ、その当時は伝統的なものにかかわれるのがうれしかったです」。
そして、伝統的な日本の技術を自身で受け継ぎ、そして、世界に発信するために不安を抱きながら、和傘職人という非凡なる道に飛び込んだのです。
和傘づくりで大切にしていること
参照:https://stories.mitsuihome.co.jp/61.html
和傘は竹でできています。自然の素材だからこそ、風情がある美しさが表現できるのですが、一方では、自然の素材だからこそ加工が難しいという面があります。例えば『胴張り』という作業です。「竹の骨に糊をつけて和紙を貼るんですが、通常の大きさの傘だと4枚の紙を貼りますので、その境目を目立たないようにしないといけないんです。さらに、竹っていうのは節でゆがみがあるので、まっすぐな紙をゆがんだ骨に貼らなければいけない、ちょっとでもずれてしまうと糊のあとが付いてしまうので一発勝負です」と、その難しさを語ります。
ただ、それを技術でカバーしてお客さんに本物を届けて、喜んでもらうことこそ、職人冥利に尽きると西堀氏は言います。そして、その技術は和傘だけではなく、さまざまな「和」を感じさせる商品も生み出しています。
京和傘の魅力と技術で、日常生活で使えるものを
京和傘の魅力について、「京都ならではのシンプルで上品な美しさと侘びた雰囲気、古くから伝わる色合いやデザインを備えているところですね」と語る西堀氏。実用性も耐久性も兼ね備えたものですが、やはり、日常生活で気軽に使用で着るものではありません。そこで、西堀氏が考えたのが日常生活でも和傘の魅力を感じられる商品でした。
和風照明「古都里-KOTORI-」の誕生
参照:https://stories.mitsuihome.co.jp/61.html
それは、和傘がくれたアイデアでした。「近所のお寺の境内で和傘の製作工程のひとつである傘干しをしていたときに、和傘を太陽にかざして見ていたら、もれてきた光がやさしくきれいだったので、照明器具として使えないかと思い立ちました」。
和傘の売れ行きは伸びていたものの、さらに日常の中に取り入れたいと思っていた西堀氏。和傘づくりの工程で、照明器具としての可能性を見出し、製作をはじめたのが、和風照明「古都里-KOTORI-」でした。照明デザイナーなど、異業種の人とも協力をして、日本の伝統文化を継承しながらも新しいものを生み出していく、この企画は大成功を収めます。日本国内はもちろんのこと、日本の伝統美は海外でも多大な評価を受け、15ヶ国以上に輸出しています。また、国内では「グッドデザイン賞」、ドイツでも「ドイツデザイン賞」を受賞しています。
新しいものも、時が経てば伝統になる
参照:https://www.shinise.ne.jp/hiyoshiya/item/12029/
伝統は非常に大切なものです。しかし、そこに留まり変わらないものを守っていく部分と、時代に合わせて変化をしていく部分があります。西堀氏の理念は「伝統は革新の連続である」ということ。現在は新しいものでも、それを100年間、200年間継続していけば「伝統」と呼ばれるのです。
「時代にあった変化をしないと、いくらいいものでも使えない。普通の人が、カッコイイね、かわいいね、おしゃれだねって言って、お金を出して買おうと思うようなものじゃないとやっぱりだめなんです」と、語る西堀氏。現在もさまざまなデザイナーやアーティストとコラボレーションをして、新しいものを展開しています。
西堀氏のつくりだす美しい和傘や照明器具は、ときには芸術作品にも例えられます。しかし、それはあくまでも、使用するものというのが西堀氏の考え方です。「自分たちが作っているものは作品ではありませんので、お客様それぞれのご要望にあったものを限られた条件の中で最大限のクオリティを発揮して製作するということです。それがプロだと思います」と、あくまで職人の目線でものづくりを行っているのです。