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日本のものづくりデザイナー3~プロダクトデザイナー・辰野 しずか(たつの しずか)~

海外留学を通して見えた、日本の伝統産業の常識


辰野しずか氏 参照:https://www.fukunaga-print.co.jp/shikoutsushin/shikoushiten/2018/tasuno_01/

辰野しずか氏は、1983年生まれのプロダクトデザイナーです。国内でプロダクトデザインを学べる大学を探していましたが、当時はまだ対応している学部が少なく、イギリス留学を決意。キングストン大学プロダクト&家具科を首席で卒業しています。2011年に独立し、現在ではさまざまな分野のプロダクトデザインを手掛けています。なかでも、海外留学をきっかけに日本の伝統産業に興味を持ち、特に工芸品のデザインには積極的に関わっているようです。

海外に行くことで、日本を知れた

辰野氏は海外で学んだことにより、日本のことをより詳しく知ることが出来たといいます。「留学前に日本のことについて改めてきちんと知っておこうと、伝統工芸に関する本を読んだり、職人の工房を尋ねたり、茶道を始めたことで、世界に誇れる自国の文化を再認識しました」と、語るように今まで見過ごしていたものに、興味を惹かれていったのです。
また、イギリスで学んでいくうちに、日本で培ったデザインに対する価値観が大きく変わっていったとも言います。それは、日本で主流となっている「機能主義で無駄のないデザイン」以外にも、多様な価値観があるということです。辰野氏は「これまでずっと常識だと思っていたことが一旦、壊れて、それによって何かから解き放たれたような気持ちになりました」と語るほど衝撃を受けました。そして、その価値観を帰国後に、興味を惹かれていた日本の伝統産業に取り入れていったのです。

作る人を意識してデザインする


薩摩切子職人の鮫島悦生氏と制作した新作グラス 参照:https://www.iwasaki.co.jp/corporate/talk/23_tatsuno-01.html

帰国後、デザイン会社に就職をしてグラフィックなどの経験を積んだ後、辰野氏は独立をします。多彩な業種へのデザインを手掛けていますが、やはり、学生時代から興味を持った日本の伝統工芸には、特別の思い入れがあるようです。そのため、工芸分野での仕事をするときには、「作る人」と密接に関わることも少なくないそうです。
その思い入れは、次の言葉に凝縮されています。「工芸の現場って、家族だけで経営しているような工房もあります。代々伝わる技術で取り組んでいて、工房に、彼らの人生が集約されているんです。そういうお話を聞くと、作る人のことも、ないがしろにはできません」。辰野氏のデザインが、「作る人」のことも意識したデザインだと言われている所以は、このような考え方に基づいたものなのでしょう。

さまざまな悩みを抱えながら進化していくデザイン

独立を果たしてからは、順調に仕事の依頼が入り、充実した日々を送っていた辰野氏ですが、次第に仕事に対する悩みや矛盾点を感じるようになります。それは、「外部のデザイナー」という限界でした。

デザイン分野で総合的な企業支援を


参照:https://www.fukunaga-print.co.jp/shikoutsushin/shikoushiten/2018/tasuno_01/

辰野氏は企業から依頼を受けると、デザインはもちろんですが、それに関連する販売戦略や宣伝方法などに対しても、一緒に考えるという姿勢を取っています。例えば、工芸品を生産する企業の場合、技術力は非常に高く良い製品を製作しているのに、販売方法や宣伝などの分野に精通していないことがあります。辰野氏は、そのような場合に、積極的にアドバイスを行っているそうです。
しかし、外部のデザイナーとして、デザイン以外に携われることには限界がありました。企業側とビジネス展開の目標にずれが生じることもあったようです。

ゆっくりと時間をかけて、理想に近づく


琉球ガラスのアクセサリー 参照:https://www.axismag.jp/posts/2021/11/428488.html

辰野氏の悩みは、すぐに解決するものではないでしょう。しかし、時間を掛けて理想に近づく努力は常に怠らないといいます。その基本は、デザインに自分のカラーを反映させすぎないこと。その企業で働く人たちの人間性、風土、工場の空気感を大切に考えながら、その会社がもつ素材や技術のなかから価値や魅力を最大限に引き出すことを念頭において、デザインをすると言います。
そして、さらに理想に近づくためにクライアントから依頼された仕事だけではなく、自らが企画したプロジェクトや、アートワークもスタートさせています。
今後は自分の作品の発表と、日本の伝統産業を中心とした仕事、どちらも大切にしながら仕事を継続していきたいと語る辰野氏。これからも新しいスタイルのプロダクトデザイナーとして活躍していくことでしょう。

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