東北、仙台を拠点にプロダクトデザインと工芸を発信
小松大知氏 参照:https://sendai-c3.jp/article/interview/daichi-komatsu-1/
小松大知氏は、1991年宮城県仙台市の生まれです。東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科を卒業後、東京や横浜などの企業でデザイン業務を担当してきました。学生の頃から地元仙台を拠点にしてデザイナー活動をおこないたいと希望していた小松氏。その願いが叶い、2021年には仙台市内に事務所を構えます。それと同時に、以前から興味のあった古物店も開店、古い時代の工芸品を復刻する事業も目指しています。
工業系高専から工業デザイナーを目指す
小松大知氏デザイン 参照:https://www.torch-design.com/
中学卒業後に小松氏が進んだのは仙台電波工業高等専門学校(現・仙台高等専門学校)の電子制御工学科でした。エンジニアを目指して電子回路やプログラミングを学んでいましたが、次第にある違和感が芽生えてきたといいます。それは、「自分のやりたいことはエンジニアじゃないかもしれない」ということ。「研究室で数字や波形と睨めっこするより、そういった技術を応用したものをつくって、それが実際に使われている風景が見てみたいと思ったんです」とも語っています。
その言葉通り、高専卒業後は工業デザインやプロダクトデザイナーを目指して東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科へと入学。デザイナーとしての基礎を学ぶことになります。
東京・横浜のデザイン職から「手仕事」への回帰
小松大知氏デザイン 参照:https://www.torch-design.com/
東北芸術工科大学を卒業した小松氏は横浜市にある大手オフィス機器メーカーのデザイン分門に就職、その後東京のデザイン事務所などでも仕事をしています。企業でのデザイン現場で経験を積むことで、「この数字は図面上では不要だな」などテクニカルな目線での調整など、多くのことを学べたといいます。
ただ、小松氏はさらなるステップを踏みたいという希望がありました。それは、「手仕事に立ち戻ってみたい」ということでした。「企業やデザイン事務所で数々のデザイン制作に携わることができてとてもありがたいと思う反面、パソコンに長時間向き合う時間も多くありました。実際に手を動かしてものをつくる・考えるという時間が少なくなっていくにつれ、学生時代に感じていた工業製品への興味関心が徐々に薄れていくのを感じたんです。むしろ、工業製品が持っていない、木工作家や職人の手仕事に魅力を感じるようになっていました」と語る小松氏は、木工を学べる職業訓練校に通うため、長野県へ移住。新たなキャリアの第一歩を踏み出します。
故郷仙台での独立、古い工芸品の復刻事業も手掛ける
工芸指導所の資料一式を収蔵する東北歴史博物館での調査作業 参照:https://sendai-c3.jp/project/kougei-shido-sho-3/
長野県で木工を学んだ小松氏は、2021年6月に独立のため仙台市に帰郷。、TORCHという屋号でデザイン事務所を立ち上げました。2021年11月からは宮城大学の特任助教への任命もあり、多忙な日々を送っています。そのなかでも、特に力を入れているのは、地元仙台で製作された優れた工芸品を復刻するプロジェクトです。
見る工芸から使う工芸へ
人口木目大皿 / 東北歴史博物館蔵 参照:https://sendai-c3.jp/article/interview/daichi-komatsu-2/
仙台には日本初の国立デザイン研究機関である「工芸指導所」という施設がありました。優れたデザイナーを輩出し、多くの優れた製品も残されています。ただ、それらの製品は東北歴史博物館に収蔵されていて、企画展の際にガラス越しにしか見ることができないというのが現状です。
そこで小松氏は、これらの優れた製品を復刻しようと考えました。「工業デザインの原点となる研究機関が仙台市に生まれ、たくさんの功績を残していたのは大変素晴らしいことなのに、仙台出身の僕でさえそのことを少し前まで知りませんでした。この歴史や当時のデザインの素晴らしさを多くの方に知ってもらいたいと思いました」と、プロジェクトの意義を語ります。
現在は、権利関係の調査が終了して、東北地域の職人や企業に試作品の依頼をしている段階だそうです。歴史的なデザインの工芸品を実際に使用できるようにする個のプロジェクトは、仙台市の助成も受けながら、着々と進んでいます。
古いものに新たな価値を見出す
器 / 東北歴史博物館蔵 参照:https://sendai-c3.jp/article/interview/daichi-komatsu-2/
小松氏はデザイナーとして、新しいものも古いものも、区別なく価値があると考えています。「自分もデザイナーとして新しいデザインを生み出すと同時に、国内外を問わず古い時代のものを集めて新たな価値を発見して伝えることもやっていきたいと思っています。コロナ禍というのもあって、なかなか思うように進んではいませんが、来年中には「用無用」という名前の古物店を事務所と併設して始める予定です」と、語るように準備は進んでいます。「ものづくり」に対して多面的にに関わりたい、とも語る小松氏。地元仙台でさらなる新しいデザイン価値を発信していくことでしょう。