歴史ある越前和紙の伝統を受け継ぐ伝統工芸士
五十嵐製紙の伝統工芸士、五十嵐匡美氏 参照:https://story.nakagawa-masashichi.jp/113986
五十嵐 匡美氏は1919年に創業した越前和紙工房「五十嵐製紙」の4代目です。2015年には伝統工芸士として認定され、伝統技術を継承した和紙づくりをおこなっています。また、新しいことにも挑戦しており、2020年には廃棄野菜や果物を原料とした和紙「Food Paper」を開発して注目されています。
幼少期から自然と意識した家業を継ぐこと
和紙の灯りスタンド「薫 KAORU」 参照:http://www.wagamiya.com/akarikomono/akari/index.html
3和紙漉きの様子 参照:https://sdgsstory.global.brother/j/special/minna/585/
「私が一人っ子だったこともあり、代々続いている工房を継ぐのが当たり前の流れでした。越前は日本最古の和紙の産地で、多くの人が紙漉きに携わっている街ですから」と、語る五十嵐氏。
小さい頃は外でもよく遊んでいたそうですが、手芸やお菓子作りなど、細やかなことも好きだったといいます。そのような気質が「職人」という職業に自然と入っていけた理由の一つかもしれません。
五十嵐製紙では現在9名の従業員で、主に壁紙やふすま紙のほか、包み紙やお酒のラベルといった包装紙、小物類などを作っています。
品質が高く美しい越前和紙
和紙漉きの様子 参照:https://sdgsstory.global.brother/j/special/minna/585/
越前和紙は、福井県越前地方の岡太川流域で作られている和紙のことです。和主な原料は、植物の表皮の内皮である靭皮繊維で、楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)などが用いられます。
その歴史は古く、大陸から紙が渡来した4~5世紀頃には既に越前和紙が作られていたと言われています。越前和紙の名称が見られる最も古い文献は、正倉院貯蔵の古文書にあります。
仏教の伝来により、主に写経用紙として用いられてきましたが、文化の発展とともに紙の需要は増加してゆき、日本の歴史とともに実用性や文化の発展に寄与してきたのです。
野菜や果物を紙にする、未来へつなげる紙の可能性
葡萄色のノート 参照:https://story.nakagawa-masashichi.jp/113986
越前和紙の工房数は現在、約50件ほど。しかし、他の伝統工芸と同様に後継者不足という悩みがこの地域にも押し寄せています。また、和紙の原料である植物の収穫量も年々減少しており、入手困難となっています。そこで、「伝統技術を守りながらも、持続可能な商品をつくりたい」と五十嵐氏が考えたのが破棄される野菜や果物を使用した「Food Paper」でした。
息子の自由研究から生まれた新たな商品
みかんからできたサコッシュ 参照:https://story.nakagawa-masashichi.jp/113986
実は和紙に食べ物を使用するというアイデアは、五十嵐氏の次男が小学校4年生のときから5年間もの間おこなってきた「自由研究」から得たものでした。
彼は身近な食べ物を使用して紙をつくる実験を繰り返し、顕微鏡での繊維の様子や強度までも細かく記録して実験を続けていたのです。
それを身近で見ていた五十嵐氏は、破棄される野菜や果物をカット野菜の工場から譲り受けて和紙をつくることを思い立ちました。つくってみると、「ミックスジュースみたいにいろんな食べ物を組み合わせても色味や風合いが変わって面白いですよね。無限大の可能性がFood Paperにはあると思っています」というように、食材により色合いや風合いも異なり個性的な和紙をつくることに成功したのでした。
伝統技術とアイデアが新しい和紙をつくりだす
ストッカー。しょうがでできたストッカーはしょうが専用、みかんのストッカーはみかん専用といった具合に、収納する野菜や果物の種類別に用意したくなります
この製品の開発は、和紙の原料不足へのアプローチになると同時に、世界的な問題でもあるフードロスの減少という重要な課題も含んでいます。
次男のアイデアと伝統工芸士である母親の技術で生み出された新しい和紙、Food Paper。現在の商品は、文房具やストック用の紙袋などが発売されています。代々つないできた伝統技術の継承と、それを感じて育った次男の自由研究。その2つが融合した Food Paperは、さらなる未来につながる画期的な製品と言えるでしょう。