父に憧れて江戸切子職人の道へ
鍋谷 海斗氏 引用元:https://nabetani-glass.com/product/product1-3/
鍋谷 海斗氏は1994年東京都の出身です。江戸切子工房である「鍋谷グラス工芸社」の三代目・鍋谷淳一氏の長男として生まれ、大学卒業後、2年間ガラスメーカーに勤務を経て父である淳一氏の元に弟子入しました。今回は2021年、2022年の江戸切子新作展テーブルウェア部門にて2年連続金賞を受賞するなど、大きな注目を集める気鋭の江戸切子職人鍋屋氏をご紹介します。
シーンによって多彩な表情を見せる江戸切子
三代目と四代目の作業風景 引用元:https://nabetani-glass.com/
職人の家に生まれた鍋屋氏ですが、子ども頃には家業を継ぐ気はなかったと言います。しかし、毎日工房で作業する父の背中を見るにつれて、その仕事に憧れを抱くようになりました。
大学卒業後、修行のために2年間ガラスメーカー勤めた後、24歳で職人の道に入ります。「江戸切子は、使うシーンによって表情が変わることが特長です。飾っている時、飲み物を注いだ時、 手に持った時、口をつけた時 、違う景色が広がります。最初は美しさで選んだグラスも、手に持った瞬間に新たな楽しみ方が見つかるところが愛される理由のひとつなのかと思います」と、語るように、現在では江戸切子の美しさにすっかり魅了されています。
職人の情熱が込められた江戸切子
氷晶 透明なガラスの内側に色を被せた「内被せガラス」を使うことにより表面をどれだけカットしても色が失われることはない。引用元:https://nabetani-glass.com/product/product1-3/
江戸切子は、江戸時代後期に誕生し、現代まで受け継がれてきた日本の伝統工芸品です。ガラスの表面に、熟練の職人が手作業で施す繊細なカット模様が特徴で、その美しさは見る人を魅了します。
江戸切子の歴史は、江戸時代にガラス問屋を営んでいた加賀屋久兵衛が、金剛砂を用いてガラスに彫刻を施したことに始まります。その後、明治時代に西洋のカットグラス技術が導入され、江戸切子の技法は大きく発展しました。
江戸切子の魅力は、その美しさだけでなく、歴史と伝統が息づいている点にもあります。一つ一つの作品は手作りで職人の技と情熱が込められており、使う人の心を豊かにします。
代表的な文様としては、「魚子(ななこ)」、「麻の葉」、「籠目」などがあり、これらの文様は江戸時代の庶民の生活に根ざしたものです。また、現代では、伝統的な文様をベースに、現代的なデザインを取り入れた作品も数多く制作されています。
父から教わった「江戸切子の魅力」を追求する
プラネットロック 左右で異なる色を使った世にも珍しい二色被せガラス 引用元:https://nabetani-glass.com/product/product1-2/
1949年に創業された鍋谷ガラス工芸は、 鍋谷海斗氏で四代目になります。現在も修行中ですが、師匠である父からは毎日のように学ぶことがあると言います。
「時間は技術」という教え
乱舞 二色を被せた生地に世界一美しいと言われるモルフォ蝶が乱れ舞う様子を表現した作品 引用元:https://nabetani-glass.com/product/product2-3/
「仕事を丁寧に行うことは大切ですが、父によく言われるのが、『時間をかけてクオリティーを下げている』という言葉です」と語る鍋谷氏。
カットをゆっくりと作業すれば文様の接点が合いやすくなりますが、その反面、スピードが遅くなるとカット面に段ができ、美しさが損なわれる原因になることを教わったそうです。
「その教えを、常日頃、肝に銘じてガラスと向き合っています。職人として100点のものづくりを目指すのではなく、合格点の80点を、いかに81点、82点にするかという仕事が大切だと思うんです。自分ができない表現、見つけられてない表現はまだまだあると思うので、作品作りの幅を広げていって、そして、いつの日か父を超えたいと思っています」と、父への思いを語ります。
経験は新たなデザインを生む
蛸 海中から海面へ、釣り上がる蛸を目にしたことで生まれた作品 引用元:https://nabetani-glass.com/product/product2-2/
師匠であり、父である三代目鍋谷淳一氏は四代目のの成長について次のように語っています。「現代の江戸切子は道具が進化したことで昔の創造よりも細かいカットができるようになりました。その結果、デザインも技術も日々変化を続け、クオリティーが上がっています。自分が作りたいものを形にできるようになった今、創造に対して視野を広げることが大切です。創造というのは、自分が培ってきたものでしか表現できません。息子には、どんな事でも経験して欲しいと思っています。経験は新たなデザインを生み、本物に近づけることができます」
また、「いつか息子にかけたい言葉があるんです。『俺より上手くなったな』。私も父から言われた時は涙が流れました。その言葉を心から言える日が来ることを楽しみにしています」とも語る淳一氏。
「いつの日か父を超えたいと思っています」と語った四代目海斗氏に、その言葉がかけられる日も遠くはないでしょう。