手作業で鏡をつくる数少ない鏡職人
山本晃久氏 参照:https://story.nakagawa-masashichi.jp/12820
鏡は古来より神聖なものとして祀られてきた歴史があります。現在でも多くの神社では御神体として鏡が祀られており、そのため特殊な鏡の製作や修復には現在でも需要があります。しかし、古来からの手作り製法で鏡を製作する「鏡師(かがみし)」は非常に少数となっているのが現実です。今回はそのなかの一人、青銅鏡や図柄が浮かび上がる魔鏡など、伝統的な和鏡を製作している株式会社山本合金製作所の五代目、山本晃久氏をご紹介します。
三代目の祖父に師事して家業を継承
山本氏は1975年生まれで、鏡の製作に興味を持ったのは大学生の頃。アルバイトで家業を手伝ったことがきっかけだったといいます。「鋳造の工程に携わったのですが、自分が作った物が仕上がってくるのを見るのが楽しみでした。ものづくりって楽しいんやなあと感じて、この仕事をやりたいと思ったのがきっかけです」と語るように、子供の頃から身近にあった「鏡」という、ものづくりの魅力を無意識に身体で感じていたのかもしれません。
鏡職人の最初の修行は鋳造から始まります。山本氏も京都市の工場で6年間鋳造の修行に明け暮れた後、祖父であり無形文化財保持者である山本凰龍(やまもとおうりゅう)氏の元で本格的に鏡師としての修行を始めたのでした。
ローマ法王に魔鏡を献上
魔鏡の投影画像 参照:https://story.nakagawa-masashichi.jp/12820
山本氏が師事していた祖父、山本凰龍氏は和鏡の第一人者であり、「魔鏡」の技術を現代に蘇らせた人物でもあります。魔鏡とは、中国が起源と言われる反射光を当てると文字や絵柄が投影される特殊な鏡です。日本では古墳時代の遺跡から出土されていて、その後、17世紀に隠れキリシタンがキリスト像などを浮かび上がらせるために使用されていました。ただ、その技術は一度途絶えてしまい、山本凰龍氏の手で復活できたという経緯があります。
これは歴史上、非常に重要な出来事でもあり、1990年にはこの復活させた技術で製作した「隠れキリシタン魔鏡」をローマ法王に献上。また、2014年に安倍首相がローマ法王に献上した「隠れキリシタン魔鏡」は、山本氏の父である四代目と、五代目である山本氏の合作でした。こうして、代々受け継がれる歴史的で貴重な技術を山本氏は吸収していったのです。
伝統の手作りの技術にこだわり、現代的な表現にも挑戦
山本氏は、伝統的な手作りの製法にこだわりを持つと同時に、現代的な表現にも挑戦し、海外の展覧会への出展やアーティストとのコラボレーションも積極的におこなっています。それは、伝統産業をいかに存続させていくかの挑戦でもあります。
手仕事にこだわることは、技術を継承すること
参照:https://shop.benitsubaki-soleil.jp/?pid=169154765
山本氏が手仕事にこだわるのは、やはり師匠である祖父の影響があるからだといいます。「(第二次世界大戦の)敗戦後、国から神社にお金がまわらなくなって、祖父の時代に鏡の仕事がゼロになったことがあるんです。そのときに祖父は、鏡の技術を維持するために、おなじ鋳造の仕事である仏具の製造も始めました。手仕事の技術って、一度その仕事をやめてしまうと失われちゃんですよね」と、語るように技術を継承するには、常にその仕事を行う必要があるのです。
継承した技術で、伝統的な鏡を製作することは非常に意義があることです。山本氏のもとには、神社仏閣から古い鏡の修復依頼や博物館からの依頼もあると言います。ただ、それだけでは、現代、そして未来で技術が存続することは難しいと、山本氏は考えます。
伝統の技術で新しいものをつくる
書家・川瀬みゆき氏とのコラボ作品 参照:https://shop.benitsubaki-soleil.jp/?pid=165173790
「作り手・売り手・使い手のコミュニケーションを密にとって、どんなものが欲しいか、どんなものが作れるか、お互いを理解してやっていくことが大事じゃないかと思います。良い物を作ればニーズはあると思うんです。それをちゃんと売り手が使い手に伝えれば、使い手も理解して購入できるし、需要があれば仕事も成り立ちますよね。そうすれば自然と業界も盛り上がって、仕事も残っていくと思います」と語る山本氏。
情報とコミニュケーションが重要視される現代社会ですが、それは過去の時代も同じでした。ただ、現代がデジタル化をして情報量が膨大になっただけです。正確な情報を元に、時代に支持される作品をつくる。これは「魔鏡」がつくられていた時代でも、現代でも変わりのない普遍的な真理と言えるでしょう。山本氏は、それに加えて「良い物をつくる」という、ものづくりの基本を守り、これからも新しいものづくりにチャレンジしていくことでしょう。