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ピカピカの靴を履くと、気分が上がり、1日が楽しく感じられますよね。
紳士淑女の必需品であり、ステータスとも言える『靴』は、常に綺麗にしておきたいものです。
そんな靴を綺麗に磨き上げることに特化した職人が、靴磨き職人です。
靴磨き職人は文字通り、靴磨きを専門とする職人のことで、靴のスペシャリストといえるでしょう。
しかし、靴磨き職人について詳しく知っている、あるいはその職業の存在について認知しているという方はあまり多くはありません。
今回は、そんな靴磨き職人の技術とこだわりを余すことなくご紹介するとともに、知られざる靴磨き職人の魅力に迫っていきます。
靴磨きの歴史
靴磨きの歴史は、100年以上に渡ります。
日本で靴磨きが始まったのは、第二次世界大戦の敗戦と言われており、戦争によって社会の貧困が深刻化したことで、ストリートチルドレンと呼ばれる、路上で生活せざるを得ない子供達が、お金を稼ぐために始めたのが、靴磨きであると言われています。
この時期から、都市部を中心に、路上で靴磨きをする少年が多く見受けられるようになりました。彼らはのちに、『シューシャインボーイ(靴を磨く少年)』と呼ばれ、これが現代の靴磨き職人の礎となっています。
当時から、ある程度シューシャインボーイの需要があったことから、美しい靴を履いていることは、この時代からある種のステータスであったことが窺えますね。
靴磨き職人は、どのように進化していったのか
先に触れたように、靴磨き職人は、『ストリートチルドレン』から派生したものですが、当時と今の靴磨き職人を比較すると、その形態は大きく変化してきていることがわかります。
『靴磨き』というと、路上でスーツを着た紳士が小さな台に足を乗せて、職人に靴を磨いてもらっている光景を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
しかし、現代の靴磨きは当時とは一線を画すものになっています。
靴磨き職人の技術は一朝一夕の鍛錬で身につくことではないことから、今では自分の店を構える人も多く見受けられ、れっきとした『職業』として確立していきました。
路上で跪きながら靴を磨いていた職人たちは、華麗にスーツを着こなして靴を磨くようになり、いつしか、『紳士のたしなみ』としての靴磨きの文化を確立させていきました。
しかし、たとえ靴磨きの体系が変化しても靴を磨く過程や技術は脈々と受け継がれています。
馬毛や豚毛のブラシで丁寧に汚れを落とし、クリームで革に栄養を与えて、ワックスでピカピカに磨き上げる、その一連の工程はまるで、靴に再び魂を注ぎ込んでいるかのように見えます。
靴磨き職人は靴を磨くときに、ただ単に綺麗にするだけではなく、『靴とどう向き合うか』を意識して靴磨きを行います。そのため、靴磨き職人の技術の中には、所作や靴に対しての姿勢等も含まれるのです。
そういった靴磨き職人の靴と向き合う姿勢そのものも、時代とともに変化していっているのかもしれません。
靴磨き職人に必要な素養とは?
靴磨き職人は、単に靴を綺麗にするだけではありません。磨き上げ、メンテナンスを行うことで、大切な靴をより長く、より大切に扱うための、ある種儀式といってもいいほど大切な作業です。
靴磨き職人は、魂を込め、お客様の靴を磨きます。
そんな靴磨き職人は、実際にどのような存在なのか、具体的にみていきましょう。
靴磨き職人には公式に認定された資格などはありませんので、道具さえあれば簡単に始めることができます。しかし、その奥深さと高いスキルが求められることから、決して簡単な職業とは言えないでしょう。
資格がないということは、体系的に技術を学ぶ方法が確立されていないということです。
では、靴磨き職人はどのようにして技術を身につけるのでしょうか?
現在、世界中で活躍している靴磨き職人の多くは、本やインターネットから情報収集を行なったり、あるいは既に活躍している靴磨き職人の弟子となることでその技術を高めたりと、さまざまな方法があります。
趣味が転じて職人を志す人もいれば、脱サラをして靴磨き職人一本で食べていくために覚悟を決めて始める方もいます。
脱サラと表現しましたが、靴磨き職人の中には女性の職人さんもいますので、決して男性のための職業というわけではありません。
ただ、よほどの覚悟や、経験がなければ、おいそれと簡単になれる職業ではないことから、靴磨き職人の技術、覚悟が窺えます。
靴磨き職人には決まった技術の習得方法がないことから、とても職人気質な人にしかなれないのではと思われる方も少なくないでしょう。
しかし、現在活躍している数少ない女性の靴磨き職人である、河村 真菜(かわむら・まな)さんは、靴磨き職人に必要なのは、『毎日続けられるかどうか』だと語っています。
河村さんは、靴磨きの専門店を経営するオーナーでありながら、自宅でも毎日靴を磨いているんだそうです。それだけ毎日続けられるというのは、覚悟はもちろん、靴磨きへの愛情があってこそなのかもしれません。
筆者が思うに、靴磨き職人に必要な素質とは、細やかなスキルはもちろんのこと、『靴磨きを愛すること』、そして、『こだわりをもつこと』なのではないのでしょうか。
好きだからこそ毎日続けられるし、続ければその分だけ技術も向上する、職人が職人たる所以を感じたような気がします。
靴磨き職人になるまで
ある程度靴磨きについて知ったとしても、具体的にどのようなプロセスで靴磨き職人になれるのか、わからないという方も多いかと思います。
靴磨き職人になるための方法として、正解とされているものが現状はありません。
かつての靴磨き職人は、自身で道具をそろえ、独学で技術を身につけるというのが一般的でした。しかし近年では、店舗を構える職人も増加しているため、それらの店舗へ弟子として参画し、腕を磨いたのち、独立する職人も増えてきています。
これらを鑑みても、職人の在り方、そして成り方というのは時代とともに変動していることがわかります。
また、弟子入りや、店舗への就職などで、ある程度の基本的な技術の習得は可能ですが、靴の状態を見極め、顧客にあった技術を提供するためには、日進月歩、自身の努力も欠かせません。
靴磨き職人は、ノウハウを身につけたとしても、経験を積まないことには技術は獲得し得ません。そのためには、できる限り多くの靴を磨くことが練度を上げるための近道です。現に、今全国で活躍している靴磨き職人の多くは、とてつもない量の靴を磨いてきています。
より多くの経験を積むためには、店舗等での業務に止まらず、友人の靴を磨かせてもらうなど、自分自身でチャンスを見つけて経験値を獲得していくことが重要です。
今や靴磨きは若者にも広がっており、靴磨きをファッションの一部として捉える価値観も広がってきているため、靴磨き職人としてのあり方は今後も大きく変化していくでしょう。
靴磨きには世界大会が存在する!
靴磨きの世界では、驚くべきことに世界大会が開催されています。靴磨きの世界選手権は、ロンドンでの開催を皮切りに、その後日本、スウェーデン、ロシアへと広がっていきました。
大会にもいくつかの種類がありますが、今回は特に有名な、『シューシャイニング・チャンピオン。オブ・チャンピオン』を取り上げます。『シューシャイニング・チャンピオン。オブ・チャンピオン』は、文字通り、歴代のチャンピオンが集結し、王者の中の王者を決定する大会で、今や靴磨き職人や、職人を目指す人たちにとっては目標とする大会になっています。
大会では、磨きの美しさ、磨きのバランス、所作の3基準をもとに、8名の審査員が判定を行います。競技は、職人が3足の靴をそれぞれ15分ずつ、ブラシとクロス以外を公式の道具から選択し靴を磨きます。
靴先をまるで鏡のようにピカピカに磨き上げる『鏡面磨き』は、手慣れた職人でも一時間かかるとされている中、シューシャイニング・チャンピオン・オブ・チャンピオンでは制限時間15分で磨き上げる必要があることから、求められる技術の高さが窺えますね。
この大会の直後には、シューケア製品が飛ぶように売れることから、革靴愛好家にとっては非常に影響力の強いイベントだと言えます。
日本でも有数の靴磨き専門店!
こだわりの靴を、より綺麗に、長く履きたい。そんな方のために、日本でも指折りの技術を有した職人が在籍する、靴磨き専門店をご紹介します。
1. Brift H(ブリフトアッシュ)
ブリフトアッシュは、2017年の靴磨き世界大会にて、初の世界チャンピオンとなった長谷川裕也さんの在席する靴磨き専門店で、東京に2店舗、北海道に1店舗あります。
落ち着いたモダンな雰囲気の店内では、カウンターが設けられており、目の前で職人が靴を磨く様子を見ることができます。
2. Freestyle SHINJUKU
Freestyle SHINJUKUは、2020年の世界選手権にて、2位に輝いたなかじまなかじさんが、東京を中心に、日によってさまざまな店舗で営業を行われています。
Freestyle SHINJUKUにて靴磨きを依頼したい場合は、SNS等で営業情報を確認することをお勧めします。
靴磨き専門店は、在籍する職人によって店ごとに独自の技術を有していますので、色々な専門店を回りながら、理想の職人との出会いを探されてみてはいかがでしょうか。
こだわりの詰まった、靴磨き職人の世界
『ストリートチルドレン』からはじまった靴磨き職人は、長い歴史の中でその姿を大きく変えてきました。
しかし、靴を磨き、自身の心も磨く、そういった根底の部分は今もなお残っており、それが靴磨き職人を職人たらしめる要因になっているように感じられます。
自身の靴をより大切に、長く履き続けるために、自身で磨くだけではなく、一度靴磨きのプロフェッショナルに預けてみると、その別格の仕上がりに驚くことでしょう。