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輸出額80 億円の日本伝統芸術
海外の方にこんな風に聞かれたことはありますか?
” Are you interested in Bonsai ? ”
「君は盆栽に興味ないの?」
そんな経験ある訳ない。そうお思いでしょうか?
聞かれる可能性はあります。盆栽は世界に認められた文化です。そして、何と言っても筆者が聞かれたことがあるのです。まさか盆栽の話題が出ると思わず、Bones out ( 骨抜き) にしか聞こえなかったので、話がかみ合わず理解するのに何度聞き返したことか…
皆さんは盆栽について、どれくらい知っていますでしょうか?
2019 年には、日本の盆栽は欧米を中心に海外輸出額が80 億円を超える産業となる程の世界的ブームになっています。そして、そのブームは落ち着くことなく、一過性の興味を持った人たちがひいて尚、むしろコアなファン層がより深みにハマっているのです。盆栽への愛を強めて盆栽という一代では終わらないかもしれない芸術を極めるために移住をし、盆栽の職人はアーティストとして考えられるのです。
我々、匠ハンターは、職人の人生を感じる仕事( 作品) を見て感性を揺り動かされる。感受性が強く人の温もりや情緒を感じられるものに自然と惹かれ、守っていきたいと思う人たちです。
類は友を呼ぶ。
同じような感性を持つ人と出会った時に、身の上の話を100 個するよりも1つの職人が生む技術を通して、相手の感性や人間性を深く知ることができる。これは匠ハンターだからこそ、通常の会話以上に大きく得られるものではないでしょうか?
今回は、思わず人に話したくなるような盆栽の魅力を!なるべく分かりやすく紹介していきたいと思います!
世界が認めた「BONSAI」の歴史
その起源は1300 年前。唐の時代である中国から「盆景」という「皿の上に自然景色を描く」鑑賞品として、平安時代に日本に伝えられた寄贈品がルーツとなります。
中国での呼び名は「盆栽( PENZAI )」。日本では「盆栽( BONSAI )」と呼ばれ、江戸時代の職人の繊細な技術と観察眼により、独自の芸術文化として親しまれるようになり、その後、世界中でも木による芸術制作は、マニアックなアーティスト文化として存在はしていましたが、海外文献にも盆栽の歴史は少ないですが存在します。
そして、時は1970 年。日本万博博覧会。
世界中の人たちが日本庭園に出会います。
感銘を受ける中で、一際に世界中の人の心を掴んだもの。
それが1つの鉢の中に1本の木が大自然を表現する盆栽( BONSAI ) でした。
世界的には「日本の盆栽は日本人の美的感覚に合わせて表現されている」と指摘されながらも「学ぶことが数多く、繊細な作品を数十年、ものによっては数世代の時間をかけて作り上げる」と賞賛されます。
そして、世界に盆栽を求める匠ハンターが爆発的に増えることになります。
その呼び名は「BONSAI」
世界では日本の呼び名で呼ばれているのです。誇らしい。
盆栽は植物であるため、完成しない芸術と言われる中で、
自然と肝胆相照し練り上げた技術を生んだのは、日本人の職人気質から生まれる精神に他なりません。
また、その上でルーツである中国も、世界に広めた日本も、
「高尚な芸術作品に国境はない」
「共通点を見つけてお互いの良い点を学び合って行くほうが良い」としました。
盆栽という芸術文化に真剣に向き合う盆栽職人たちの真摯さと研究心が感じられます。
いかがでしょうか?
ここまで見ていただいて、その盆栽の職人たちが何を感じ何を見て1つの作品を
作り上げるのかが気になっていただければ幸いです。
盆栽-BONSAI-の基本
盆栽の良し悪し。どこを見る?
そもそも盆栽の良し悪しとはなんでしょうか?
盆栽の楽しみ方を詳しく語るには文字数が足らなすぎますので、見るための基本を話したいと思います。
①根張り(ねばり)
根が土に向かって力強く八方に張っている物が良いとされます(八方根張り)。
②立ち上がり
根元から最初の枝までを「立ち上がり(幹)」と言い、そこまでの間のくびれが少なく太い方が好まれます。幹の太さを調整する技術もまた全体のバランスを決める1つです。
③枝打ち
要は全体のバランスの良し悪しになるのですが、根本から最初の枝を「一の枝」と呼び、上に向かって順番に「二の枝」「三の枝」「四の枝」と続きます。盆栽の頭となる部分を樹冠部と呼び、大きな枝がバランスよく配置されていることが、良い盆栽の条件です。
④葉
季節によって変化する葉の色や樹種によって異なる葉の形。1つの盆栽は四季と共に、その形を変えていきます。
この4点だけでも理解をして、盆栽を眺めてみると「ああ、これが盆栽なのか。」と盆栽ごとの個性を感じられると思います。また盆栽は造形美。自由な発想で作られる作品も多数ありますので、飽くまでここで書けることは基本であり、「鉢の中に作られた自然と人工の調和の過程」を見た時の感覚で作品を楽しむことが大切です。
盆栽とはどうやってつくられる?
盆栽の極意は「植木鉢の中に大自然を生み出す」。
そのために盆栽に施すこと自体は非常にシンプルに思えます。
・施肥( 肥料)
・剪定( せんてい)( 余計な枝を切る)
・針金掛け( 幹の太さや枝向きを調整する)
・水やり
・置き場所の移動
以上が基本になります。
独特の作業は、剪定と針金掛けでしょうか。
剪定は、見る人の方向に伸びている枝を切ったり、余分な部分を切ったり。
「この枝はいらないが、下の枝のためにもう少し伸ばしてから切ろう」などと考えながら、一度枝を切ってしまえば、もう一度付けることはできません。
極めんとすればする程に非常に繊細なセンスが必要となる作業となります。
毎日毎日、日々木と向き合い。
木の育ち方、これから伸びる方向を感じながら。
針金掛けで表現したい盆栽の太い細いを調整する。
どれくらいの強さとどの位置で針金を掛け、どのような幹や枝を形成するのか。
また、この剪定と針金掛けと同じ気配りと狙いを持って、施肥・水やり・置き場所の移動も行います。
極めれば極める程に、自然の難しさに相対することになります。
「植木鉢の中に大自然を生み出す」
職人たちは、常に盆栽と向き合い、盆栽を作り続けているのです。
そう思うと、なんだかワクワクしてきませんか?
日本の盆栽が美しい理由
盆栽職人は経験と知識の中で、自然を思い通りに育てるために、日に何度も鉢植えの置く場所を変えることもあります。季節だけでなく、その日の状況を感じ取り、水をどれだけあげるかのさじ加減にこだわりを。また、その扱いは木の種類によっても違うのです。
寒い時期には、凍らぬように室内に入れたり、
春先の新芽が生える時期には手入れが忙しくなります。
夏には害虫が発生します。陽が強いので弱った盆栽には日に何度かの水やりを。
秋口には年内最後の肥料を与え寒さに備え、
冬の初めには、木が変化していく様を楽しみながら。
霜に当てなくてはならない品種もあります。
日本の盆栽が美しい1番の理由は「四季」があることです。
冬がなければ、手入れがもっと楽なのではないか。
いえ、四季があるからこそ、様々な木々が四季折々の姿を見せ、
自然のあるままの姿を鉢植えの中で表現し、
それが愛着を生み、活きた温かみとなり唯一無二の芸術となるのです。
盆栽を己のごとく感じ、自然の難しさと向き合える。
盆栽のために常に考えるきっかけを生むのは「四季」があるからです。
その中で生まれる知識と経験が、盆栽の美しさを生んでいるのです。
盆栽は人と人が手を取り合い守ってきた
江戸時代は1720 年頃、約東京都中央区の面積に110 万人が住んでいたとされ、
人口密度は世界一とまで言われています。先述した通り、江戸の職人が培った技術が世界に誇る伝統芸術「盆栽」を生んだと書きましたが、盆栽名産地に東京は含まれていないのです。
それは一体なぜでしょうか?
香川県鬼無地方、愛媛県四国中央市土居町では松盆栽の生産が盛んであり、
那須五葉松の産地として有名な栃木県塩谷郡那須地方。
同じく栃木県の真岡市では蔵王五葉松の産地です。
香川県の高松には、女子大生が高松盆栽をPR するサークルがあるのも興味深い話。
Link Bonsai Grls Project Instagram
上記した地方は、主に松の生産地として、豊富な芸術の素材がたくさんあることより発展したものと思われます。
そんな中、埼玉県にはこんな土地があります。
埼玉県さいたま市北区盆栽町(大宮盆栽村)
「盆栽町」
まさに盆栽が盛んであることを、これでもかと前に出した土地名。
なぜ、江戸で発展したはずの盆栽が埼玉に所縁を持つのか。
その由来には、関東大震災が起因していました。
昔、東京小石川周辺に、盆栽業者が住んでいた土地があり、大震災に被災したことをきっかけに、一帯の人たちが一斉に埼玉に移住することになり、生業としていた芸術文化である盆栽が、この土地名の由来となったのです。
また、江戸時代から関東地域の植木を支える地域として、埼玉県川口市安行があります。こういった東京からの盆栽を生業とした人たちの移住を含めて、江戸の盆栽職人は埼玉との所縁も大変に深かったことが見えてきます。盆栽という伝統文化を皆で守っていこうという気持ちが伝わるエピソードの1つです。
盆栽職人から学ぶ「命の芸術」
埼玉県大宮在住の川辺武夫さんは、「型に捕らわれない斬新な盆栽」を作ることで世界的に誇る日本の盆栽職人。川辺さんの手がける大胆で個性的な盆栽は、欧米では「盆栽マイスター」と称されます。ちなみに、欧州でマイスターと呼ばれることが、どれだけ名誉なことなのかはこちらの記事をご覧下さい。
職人ってなんですか。 この地球(ほし)の職人 ②
自動車メーカーで工場長を務めていた川辺さんが盆栽の世界に身を投じたのは30 歳の頃。立場を持っていたこともあり、周囲に反対を押し切り飛び込んだという。何かを捨ててものめり込む何か。まさにこれぞ職人の生き様なのでしょう。
盆栽の作業場は、実験場ともいうべき場所。木々は無理矢理に固定され、木々が非常に弱っていた。そして、7年目のある日に川辺さんはギュっと頭が締め付けられる感覚に襲われ、木の声が聞こえたというのです。
その声は「俺達だって生きている」と強く訴えてくるものだったそうです。
その日から川辺さんは、人が求める美意識よりも木々の健康状態や命を優先に考えながら、『今するべきこと、今できること、今やってはいけないこと』を見極めて盆栽と向き合うようになります。
盆栽ファースト。盆栽の元々の発想とは真逆の発想でしたが、「その木の持つ独自性」を感じられるようになってから、川辺さんの作品作りのアイデアは湯水の如く湧き出るようになったと語っています。
盆栽を愛する海外の匠ハンターたちが熱望し実現した川辺さんの海外講演会では、自ら盆栽を苦しめていたと感じた話を自身の失敗として説明し、木と向き合う心を説いていったと聞きます。職人世界とは、頭の固い世界と捉えられる方も多いと思いますが、本気で向き合う中でこそ見つかる新たなるこだわりとなっていくのかもしれません。
作りたいものを明確にイメージをして作る職人。
作りたいものを素材の声を聞きながら作り出す職人。
1人の職人に1つの信念。様々な職人の考え方にもっと触れたい感情に駆られてしまいます。
盆栽を愛する意外な有名人とは
自然と日々向き合う盆栽職人の魅力。いかがでしたでしょうか?
一重に職人といっても、様々な職人さんがいらっしゃいます。
皆さんが出会った職人さんは何を思い、何に気を付けて、その作品を作ったのでしょうか。そんなことに想いを馳せながら、ワクワクとドキドキを増幅させることは匠ハンターの1つの楽しみです。
ちなみに盆栽を愛してやまない芸能人の方も結構いらっしゃるようです。
嵐の松本潤さん、田中みな実さん、アンガールズ田中さんや様々な方が
育てること、見ることに楽しみを覚えていらっしゃるようです。
そして、球界の天才職人イチロー選手が、メジャーリーグのプロフィール欄に「趣味:金魚と盆栽」と書いたという逸話があります。和の心を忘れないようにとファンからプレゼントされたもので長期遠征中に枯らさせてしまったそうです… イチロー選手が育てた盆栽。見てみたかったですね。残念。
絵画や彫刻等と同じように、盆栽はハードルが高そうな芸術に見られがちですが、どんな方にも楽しんで出来る身近な芸術の1つです。使用する木に関しては様々。五葉松・黒松・梅・ベニシタン( 中国産バラ科)・紅葉など… ガジュマルを盆栽にしたり。歴史と海外へのBONSAI 文化が広く流出した影響で、日本のガーデニングをこよなく愛する人たちから広がりをみせたミニチュア盆栽なども生まれました。気軽に育てられますし、部屋を彩ってくれます。
私も素人ながらに盆栽を楽しんでいるのですが、盆栽に使えそうな良い器があれば「みんなが見つけた逸品」より是非教えて下さい!盆栽といえば茶色い鉢というイメージですが、自由に盆栽を楽しむ1つとして、鉢選びから自由な発想で日本の伝統芸術を楽しんでみたいと思っています。
これは私が執筆中に見つけた逸品「supreme のロゴの入った鉢( 丼? ) に入ったBONSAI」です(笑)。職人の手が入っている鉢ではないと思いますが、こういったユーモアも有り得る盆栽の世界。作る芸術に見る芸術。このコラムを通して、盆栽に興味を持っていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今後書く記事の参考にさせていただきたいので、是非コメントをいただければと思います。
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