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あなたの知らないガラスの世界、私たちのとなりにあるガラス製品の謎②

世界のガラス工芸


出典:https://yamatoji.nara-kankou.or.jp/03history/06kofun/03east_area/kitorakofun/event/4gzrqnwsrk/

世界にはさまざまなガラス工芸があり、それぞれに個性的な特徴を持ちます。ガラス工芸の盛んな地域では多くの職人が伝統的な技法で素晴らしい作品を作っていて、その芸術的な価値も評価されています。ガラス製品は非常に多くの地域で生産されていますので、全ては紹介できませんが、その一部を見ていきましょう。

ヴェネチアンガラス


出典:https://www.hakone-garasunomori.jp/venetian_glass/05/

さまざまな美しい色合いが特徴的なガラス工芸品を多数生産しています。ブローイング(吹きガラス)を基本としていて、非常に薄いというのも世界中で好まれている特徴です。
現在のイタリア東北部にあった、ヴェネチア共和国で始まったガラス工芸です。ガラス加工技術の進歩していた、アンティオキア(現在のシリア周辺にあったローマ帝国の都市)などからガラス職人を招聘して、国内のガラス製造を本格化していったと言われています。13世紀頃には世界的にも有名なガラス工芸品を多く製造する地域となっています。
しかし、ヴェネチアでは、ガラスの原料が産出できなかったため、国の産業として推し進めて来た政府は、優れた加工技術を持った職人が原料のある地域へと流出してしまうことを恐れていました。そこで、1291年におこなわれたのが強制移住です。ヴェネチア自体も島ですが、そのすぐ近くにある小さな島「ムラーノ島」にガラス職人やその関係者を移住させてしまったのです。無断で島外に出た者は厳罰を受け、一方でガラス製造に貢献した者には報奨制度がありました。ムラーノ島では多くのガラス工房が競うようにガラス工芸品を創作していったため、非常に高品質で芸術性の高い作品が生まれています。
ムラーノ島は現在でもヴェネチアンガラスの一大産地であり、多くの工房が集まって、伝統的なガラス工芸品を生産し続けています。

ボヘミアンガラス


出典:https://www.hakkoudo.com/weblog/2021/07/30/0702/

透明なガラスに、さまざまな彫り込みが施されているのが特徴です。浮き彫りなど独特の製法をとっています。現在のチェコ共和国に位置するボヘミアは、ガラス工芸に使用する資源が豊富で、ガラス産業が興ったと考えられています。
13世紀頃にヴェネチアからガラス工芸の技術が伝わりますが、ガラス職人の数は少なく、小規模な産業として、日の目を見ない時期が長く続きます。しかし、15世紀に東ローマ帝国が滅亡すると、ヨーロッパには混乱が広がり、前述のムラーノ島に住んでいたガラス職人が抜け出してボヘミアに移住するようになります。そうなると、ガラス職人を生業とする人々が増加し、また、外国からの技術も流入することによって、ボヘミアンガラスは大きく進歩していったのです。

乾隆ガラス


出典:http://photozou.jp/photo/show/3148547/2183201997

乾隆(けんりゅう)ガラスは、中国のガラス工芸品で、不透明や半透明のガラスに、色とりどりのガラスをかけたものです。私達がイメージする透明なガラス細工ではなく、色鮮やかな陶器のような作品が多いようです。
主に清朝第6代皇帝の高宗乾隆帝の在位した18世紀頃に作られたガラスのことを言いますが、現在では清時代に中国で製造されたガラス全体を指すことが多いです。ヨーロッパから伝わった着色技術を駆使して、独自の形状や彫りを施した様式は、高名なガラス作家であるエミール・ガレも愛したと言われています。

日本のガラス工芸

江戸時代に入ってから大きく進歩した日本のガラス工芸。各地に特徴的な工芸品が数多く存在しています。そのなかでも代表的なものをご紹介していきましょう。

江戸切子


出典:https://hobbytimes.jp/article/20180622h.html

江戸切子とは、ガラス製品に「切子」と呼ばれるカット加工を施す技術です。欧米などから輸入されたものには切子ガラスはありましたが、国内で初めて加工されたのは、1834年江戸大伝馬町のビードロ屋、加賀屋久兵衛が金剛砂を使用したのが最初であったと言われています。
その後、明治、大正、昭和と技術は進歩してゆき、光の屈折や反射光を巧みに演出した日本特有のガラス工芸が確立していきました。施される文様は「八角籠目紋」や「糸麻の葉紋」といった日本特有のデザインで、海外でも人気があり、それぞれの文様には「魔除け」や「縁起がよい」などの意味があると言われています。現代では東京都伝統工芸品、経済産業大臣指定伝統工芸品にも認定されている人気の高いガラス工芸品です。

薩摩切子


出典:https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post/116284

江戸時代の後期、薩摩藩が海外との交流のために力を入れていたのが薩摩切子です。1846年、江戸からガラス職人を招聘してガラス製造に取り掛かり、当時としては大変進歩的なガラス工場も稼働していたと言います。精巧な細工が特色で、徳川に嫁いだ篤姫も嫁入り道具として薩摩切子を持参したと言います。
江戸切子との違いは、表面に着色したガラスを被せているものが多く、透明な江戸切子とは趣が違うと言われます。また、最雲薩摩切子のほうが繊細であると評価する人もいます。
幕末から明治の動乱によって、一度は製造が途絶えてしまいますが、1980年代に「復刻生産」というかたちで製造が復活しています。

琉球ガラス


出典:https://yuimarluokinawaweb.jp/c/genre/craft-ryukyuglasses/ryukyuglasses-cups/51370312

琉球ガラスの特徴は、丸みを帯びたフォルムや気泡の美しさなどにあります。鋭角的ではなく、色とりどりでありながら落ち着いた印象を与える、温かみのあるガラス工芸と言えるでしょう。
その歴史は古く、沖縄がまだ琉球王国の頃からガラス細工の生産を行っていたとの記録もあります。本格的な生産は明治期に入ってからで、鹿児島など本土からの資本で近代的な工場が整備されていきます。
戦後になると、駐留するアメリカ軍が廃棄したコーラなどの瓶を再利用して、現在のような独特の味わいのあるガラス工芸に発展していきました。

日本と世界のガラス職人、ガラスメーカー

繊細な作業が必要となるガラス工芸の世界。その作品は、多くの職人の手によって生み出されています。地域によって技法は違いますが、ガラス加工を通して人々の喜ぶ作品を製作するという、職人の気概は日本国内はもとより世界的に共通しいることでしょう。世界中には技術力が高く素晴らしいガラス製品を製造している職人や企業は本当にたくさんあります。最後に、そのなかから、ほんの一部になってしまいますがご紹介したいと思います。

バカラ


出典:https://gentamatsu.jp/promo/page/archives/1635

クリスタルガラスで世界的に有名なフランスの企業バカラ。その歴史は、1764年にルイ15世からロレーヌ地方バカラ村にガラス工場設立の許可が降りたことから始まります。
その品質はフランスが国家的な威信をかけているとも言われていて、ガラス職人の技術も非常に高く、フランスの国家最高職人章を受賞した職人を50人以上も排出しています。また、完成した製品の3割から4割もの製品が最終的な検査で廃棄されてしまうほど品質基準が高いことでも知られています。

エミール・ガレ


出典:https://www.daiichi-museum.co.jp/collection/emile_galle/

19世紀末から20世紀初頭にかけて花開いたアールヌーボー(曲線を組み合わせるなど新しい芸術への運動)。その最先端で活躍したのが、フランスのガラス作家エミール・ガレです。
1878年のパリ万博で発表した青味がかったガラスで制作した「月光色」の作品以来、多くの作品を生み出しました。色とりどりのガラス片をベースのガラスへ象嵌する「マルケトリ」やガラス表面を渋い色味に曇らせる「パチネ」など、独特の技法を駆使し、芸術性の高い作品が多くあります。

藤田喬平


出典:https://www.ichinobo.com/museum/about/

藤田喬平(ふじたきょうへい 1921年~2004年)は、東京都出身のガラス作家です。金箔と色ガラスを混ぜた「飾筥(かざりばこ)」という手法で独自の作品を多く生み出しています。
海外でも高く評価されていて、各国で作品展示がおこなわれています。第25回「日本現代工芸美術展」文部大臣賞受賞、勲三等瑞宝章受章、文化勲章・文化功労者受章など叙勲や受賞歴も多数あります。

瀧澤利夫


出典:https://edo-kiriko.jp/detail.php?product_code=d006

瀧澤利夫(たきざわとしお 1938年~)江戸切子の職人として「日本の伝統工芸士」「東京都伝統工芸士」の両方に認定されている数少ない人物です。
江戸切子を愛し、技術だけではなく、オーダーメイドでは、顧客との会話の中からどのような切子作品が好みなのかを推察していくと言います。積極的にメディアにも出演して、江戸切子を現在のようにポピュラーな工芸品として世間に広めた第一人者とも言われています。

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