日本一の匠と逸品を知りたいみんなのためのコミュニティサイト 匠ウォンテッド

これからの美術館の楽しみ方。

新しいことを始めるのに最適のシーズン、春がもうすぐそこに来ています。コロナ禍で失われた外出の娯楽が、少しずつ取り戻されている今、感染リスクの低い「美術館めぐり」で春の行楽、というのはいかがでしょうか。知れば知るほど沼にハマっていく、美術鑑賞の魅力をご紹介します。

各都市、各地域に存在する「美術館」。なかなか足を踏み入れたことがない……という人も大丈夫。一緒に学んでいきましょう。
もともとこの「美術館」という施設は、立地や創設した人にちなんだコレクションを収蔵し、保存状態を維持したり、維持するために修繕したりすることが目的です。だから展示はあくまで「施設存続のために必要な資金を稼ぐための方法」のひとつです。けれども、昨今では美術鑑賞に行く人も少なくなり、様々な方法で美術館は客足を取り戻そうとしています。たとえば館内の一部を写真撮影OKエリアに設定したり、SNSとの連携で「バズる」ことを目指したり。最近では三菱一号館美術館で開催されていた「イスラエル美術館展 印象派 光の系譜」(※現在は大阪で開催中)では、日本においてはほぼ無名だったレッサー・ユリィという画家の描いた《雨のポツダム広場》が一躍有名になるといったセンセーショナルな出来事も起こるなどしています。実はこれ、作品をグッズ化する際もノーマークだったそうなのですが、一番売れた作品なのです。すごいですよね。レッサー・ユリィの作品を使ったグッズは、あべのハルカスで開催中の大阪会場と、三菱一号館美術館にて販売中です。

美術館に行くときは、休館日や閉館までの時間を確認することが大切です。基本的に月曜休館の場所が多いですが、国立新美術館は火曜日が休館日なので、下調べは必須です。最近はオンラインで事前にチケットを購入する形の美術館も多いので、行こうと思っている日時に合わせて発券してしまうのもひとつの手です。割引がきく場合も多いので、サイトをチェックしましょう。美術館の情報・展覧会の情報をまとめた「puce」というアプリもありますので、そちらを活用するのもいいですね。
展示には基本的に「鑑賞順」がないので、自分の気になったものから見に行ったり、絵画の前が空いているところから行ってみたりすると効率的です。再入場はできませんが、出るまではフロア間の行き来も自由なので、最初にざっくり見てしまって、興味をひかれたところだけ再び見に行くということもできます。リーフレットに掲載されているような展覧会の目玉作品だけでなく、自分だけが見つけた「逸品」を探し出すという楽しみもあります。まるで宝探しのように「私のお気に入り」を見つけてみてください。ひとつの作品に興味を持ったら、画家のこと、背景になった歴史などを学ぶと、次に出会ったときにもっと深く作品を理解できます。学び続けられるのも美術館の効果ですね。

私の美術との出会いは、「ピエール=オーギュスト・ルノワール(Renoir)」がきっかけでした。中学生のときに、卒業制作でルノワールの作品を模写したのですが、その本物を箱根のポーラ美術館で見たときに、文字通り雷に打たれたような衝撃を受けました。ルノワールは印象派に属する19~20世紀に活躍した画家で、ぼんやりとした空気を纏った作品を生み出したことで有名です。なかでも人物画に関しては印象派の中でもずば抜けて上手く、多くの名画を遺しています。そんなことは何も知らなかった当時の私は、「きれい」「すごい」という語彙でしか作品の魅力を知覚できませんでした。その後、ルノワールの追っかけをしながら新たな「推し画家」を増やしまくり、今では「ルノワールの描く女性はロマンティックで、瑞々しい美しさを湛えている」と言えるくらいに勉強しました。こうして「推し」を得ることで学びの幅が広がりましたし、自分の仕事にもいい影響を与えています。独学ではありますが、それでもたくさんの芸術(年代や形式にとらわれないart)に触れたことで自分が成長していることを実感できました。

現代の芸術には「空間芸術」というものも存在していて、ざっくり言うと空間すべてをデザインする、空間全部が美術になるというもの。そんなインスタレーション作品も、現在様々な美術館で数多く展示されています。有名なのは瀬戸内海に浮かぶ大島です。島全体がアート空間になっているので、私も一度行ってみたい場所です。数年前に行った、神奈川県立美術館にて開催された詩人の最果タヒさんのインスタレーション作品は圧巻でしたね。文化や形式などの垣根を超えた美の融合が、現代のインスタレーション(空間芸術)には存在します。そういう魅力もあるので、現代美術にも関心を持ってもらえると嬉しいです。

人間は「わからないもの」に忌避感、恐怖感を抱きます。だから美術も、よくわからなければ「意味の無いもの」だとか「金持ちの道楽」だとか言われてしまうのだと思っています。美術の沼にひたひたに浸かっている私なんぞ、全くと言っていいほどお金を持っていないので、金持ちの道楽などではないのですが、それも知らない人には伝わりません。むしろお金のない人にも開かれている場所が美術館だと思っています。1回の美術展に出ている作品が50~60で、入館料は1600円くらいなので、かなりお手頃なのです。それを高いと思うかどうかは人それぞれですが、少なくとも文化が生き永らえるために出す1600円は世界を良くするはずです。だから「よくわからないもの」と敬遠するのではなく、興味を持って沼にハマってみよう! と飛び込んでみてほしいのです。何も知らないよりも、ひとつでも多くのものを知って世界を広げる、世界を見る目の解像度を上げることをやめないことが、今の社会を生き抜くための手段なのかも……なんて考えてみてもよさそうですよね。新しいことに挑戦するなら今が最適、きっと得るものは大きいです。騙されたと思って美術館に足を運んでみてください。

 

情報や質問や感想などコメントを残そう!

モバイルバージョンを終了