アニメ映画の発展
昨今、アニメ映画市場が急激に伸びている。アニメ映画の需要が高まったことで沢山の作品が世に出され、今やアニメ映画は子供向けのみならず、ある程度の高年齢の層にも向けられたものも数多く見受けられる。
そもそもアニメ映画が日本で初めて放映されたのは、1912年4月に東京の映画館での「ニッパールの変形」という作品だった。1953年にアニメのテレビ放送が開始されるまで、アニメ作品を鑑賞するには、短編のアニメ映画が長編映画に添えて上映されるのを映画館で見るのが主流であり、アニメと言えばアニメ映画以外に存在していなかった。日本での映画作成はほとんど無く、海外から輸入された作品が主だった。
1970年代から一気にアニメ映画が増えるがテレビ放送アニメの再編集版が多く、映画オリジナルの作品は当時はまだ少なかった。その後1977年に放映された「宇宙戦艦ヤマト」の成功により、急激にアニメ映画の需要が高まる。それからテレビアニメでの人気作の新作を映画にし、上映する形態が恒常化した。
そんな歴史を持つアニメ映画だが、2016年8月に公開された新海誠監督作品、「君の名は。」を皮切りにして再び最近の市場を盛り上げる形になったように思う。「君の名は。」が大ヒットしたのち、児童向けではなく幅広い年代をターゲットにしたアニメ映画作品が急激に増え、昨今のアニメ映画市場の需要と供給を高めている。
今回はその「君の名は。」の監督、新海誠氏についてピックアップしていこうと思う。
アニメ映画の巨匠・新海誠
出典:新海誠・Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/新海誠
アメリカ合衆国の雑誌「バラエティ」で、2016年に「注目すべきアニメーター10人」のうちの1人にも挙げられている新海誠。アニメ映画の監督だけでなく、小説家としても活躍している。
大学時代にゲーム会社で働き始め、最初はゲーム開発を志していたが叶わず、ゲームのキャッチコピーや画像の選定などを行なっていた。その傍らで自主制作映画を作っており、1998年に「遠い世界」でeAT’98にて特別賞を、2000年に「彼女と彼女の猫」でプロジェクトチームDoGA主催の第12回CGアニメコンテストでグランプリを獲得した。この頃から、才能を開花させ始めていたと言える。
2002年、初の劇場公開作品となる「ほしのこえ」を発表。監督・脚本・演出・作画・美術・編集など、ほとんどの作業を一人で行い、約7か月をかけて約25分のフルデジタルアニメを制作した。下北沢の映画館でのみの単館上映だったにも関わらず、クチコミで話題になり作品DVDは約6万本の売り上げを出している。この売上数は他に類を見ない数で、そもそもはアニメのDVDやCDはそこまで売れるものではないが、この新海誠作品に関してはどれも好調に売れている。映画館で見た人も見られなかった人にも「見たい」と思わせるような作品を作っているという証である。因みにこの作品は第1回新世紀東京国際アニメフェア21公募部門で優秀賞を受賞。他にも、第7回アニメーション神戸 作品賞(パッケージ部門)・第6回文化庁メディア芸術祭 特別賞・第34回星雲賞 メディア部門・第8回AMD Award BestDirector賞など多数の賞を受賞した。
その後も多数の作品を手がけ、ヒットさせている。受賞歴もさることながら、映画の観客動員数なども他作品と比べずば抜けており、新海誠が手がける作品の世間からの需要を物語っている。
因みに、企業CMやPCゲームメーカー「minori」作品のオープニング映像なども新海誠が手がけている。映画だけでなく、幅広いアニメーション作品を世に送り出しているのだ。アニメ監督、アニメーターとして優れた才能を発揮し、それを国内外問わず評価されている様子がここからも分かるのではないだろうか。「児童向け」というイメージのあったアニメを発展させ老若男女問わず楽しめる作品を作り、日本文化としてのアニメーションを海外にも発信している功績は「次世代の宮崎駿」とも言えるのではないだろうか。
また、彼はこうした作品を作り始めたきっかけとして、「それまでゲーム制作会社で作ってきたものと自分の生活がかけ離れていたから」「自分の日常を肯定したい」と語っている。ファンタジックな世界観の多いゲームの中の世界と、自分が実際に暮らす日常との違いに疑問を感じたからこそ、新海誠の作り出す作品にはリアリティがあるのだ。
そして、スタジオジブリ作品、「天空の城ラピュタ」に感銘を受けたとも言っている。その背景美術に感心し、絵で表現する風景や物に興味を持ったという。複雑さ、美しさを、その中に見出したそうだ。
新海誠作品の特徴
出典:テレビドガッチ
https://dogatch.jp/news/ex/expost_64259/detail/
©︎2016「君の名は。」製作委員会
緻密で美しい風景描写や、揺れ動く人の繊細な心情を完成度の高い物語にのせて鮮やかに描き出す新海誠。彼の作品にはどんな特徴があるのだろうか。
まず、アニメとしての描画力の高さは幅広く評価されている。特に背景や空などの光の描写を得意としている、というのが筆者が彼の作品を見て感じたことだ。都会のビル街、田舎の広い風景……とにかく緻密でどこをとっても美しい。アニメ映画はテレビ放送作品よりもクオリティの高い作画が特徴ではあるが、その中でも群を抜いて美しい描写をしているように思う。
映画「天気の子」では空の描写が多かったのだが、空の微妙な色の移り変わりや色合いがリアリティを残しつつも美術的に、芸術的に描かれている。青空から夕暮れ、雨の降っているどんよりとした空。さまざまな「色」を見せる空をここまで綺麗に表現するのは並大抵のことではない。
別の映画、「君の名は。」は大ヒット作品なので見たことがある人も多いのではないだろうか。この作品では田舎の風景と都会の風景の対比が印象的に描かれている。都会の雑踏や独特の息苦しさを感じさせたり、田舎ののびのびとした穏やかな空気感を色使いや光の描写で描き分けているのだ。
実写と見間違うような美しい風景や自然描写、普段目にするものも細かくリアルに描かれ、アニメーションであることを忘れさせるような緻密な描写。これらは新海誠作品共通の魅力であり、彼の持つ「味」だと思う。ロマンチックさを持った光の描写と現実的なきめ細かな描写が入り混じり、彼の持つ独特な世界観を生み出しているのだろう。
アニメーションはもはや世界中で溢れるほどに生産されている。その中でも人の目に留まり、興味を惹くような作品を作ることは容易ではない。いかにして人の目を惹くか、それが今日のアニメーション作品に求められることではないだろうか。
新海誠作品の紹介
出典:映画.com
https://eiga.com/movie/90444/
©︎2019「天気の子」製作委員会
先述した新海誠監督作品について、ここで一例を紹介しようと思う。気になった方は是非見てみて欲しい。
「君の名は。」
あらすじ:新海誠が監督を務めるアニメ映画で前作「言の葉の庭」から3年ぶりの新作。千年ぶりとなる彗星の接近を1ヵ月後に控えた日本。東京に憧れる田舎暮らしの宮水三葉と東京の街で父と暮らす高校生の立花瀧。ある日、夢の中で東京の男子高校生になった彼女は、念願の都会生活を満喫する。一方、東京の男子高校生・瀧は、山奥の田舎町で女子高生になっている夢を見る。そんな奇妙な夢を繰り返し見るようになった2人は、やがて自分たちが入れ替わっていることに気がつくのだが、戸惑いながらもお互いの生活を体験する2人。しかし、ある日を境にその入れ替わりは無くなってしまう…。キャッチコピーは「まだ会ったことのない君を、探している」。
この作品のポイント:なんといっても都会の風景と田舎の風景の描き分け。先の「新海誠作品の特徴」でも触れたが、その空気感の違いを見事に描いているところにある。そして都会に住む男子高校生と田舎に住む女子高生の心情の違いを巧みに表現している。描画の美しさだけでなく、思春期の登場人物の微細な心の動きが観客にも伝わるような、細かな表現が魅力だ。この作品は初めて見た時と再度見返した時の「気づき」が違うのも魅力の一つ。一度全て見てからもう一度見てみると、最初に見た時には気づかなかったようなことがわかってくる。その為何度も映画館に通ったという人も多かった。また、この作品の主題歌、「前前前世」も、この映画のストーリーに絡んで良い味を出している。この曲も映画と共にヒットしたので、知っている人も多いだろう。
「天気の子」
あらすじ:新海誠監督が再び川村元気プロデューサーとタッグを組んだ。天候の調和が狂っていく近未来の東京を舞台に、不思議な能力を持つ少女と出会った家出少年が運命に翻弄されながら繰り広げる愛と冒険の物語を描く。100%の晴れ女といわれる彼女にはなんと、祈るだけで雨空を青空に変えてしまう能力があった。不思議な少女と、家出少年との交流を現代社会の闇も交えて描いていく。第四十三回日本アカデミー賞最優秀アニメーション賞受賞作品。キャッチコピーは「これは、僕と彼女だけが知っている、世界の秘密についての物語」。
この作品のポイント:この作品は、主人公の少年がさまざまなトラブルに見舞われながらも、少女と共にもがいていく姿をリアルな心象描写で描いていく点が見どころ。そして少年少女たちを取り巻く世界が光だけでなく闇も垣間見え、まさに現代社会の風刺作品と言えるだろう。この作品には山手線などの実在する駅なども多数出てくる。知っている人はその点も楽しめるのではないだろうか。筆者が特出して言いたいのは、この作品のキーワードになる「雨」の描写。一つ一つの雫の表現や、雲の合間から見える空の光などが美しく、水が光を反射する際のキラキラと輝く光の表現が上手い。また、前作の登場人物が少し出てくるので、前作を見た人はその点も注目してほしい。主題歌は前作から続き同じアーティストが手がけている。
アニメ映画界の新たな巨匠、新海誠。これからのアニメ映画を語るには外せない人物となるだろう。才能豊かな「アニメーションの匠」の世界を、是非一度楽しんでみて欲しい。
出典:
https://ja.wikipedia.org/wiki/新海誠