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日本のものづくりデザイナー5~茶筒職人・八木 隆裕(やぎ たかひろ)~

簡素な美を表現する茶筒の世界


八木隆裕氏 参照:https://www.premium-j.jp/premiumsalon/20211025_17384/#page-7

八木隆裕氏は、創業1875年という老舗の茶筒工房「開化堂」の6代目です。日本で最も古い茶筒工房、そこで製作されている製品は、見事なまでに装飾を排した、簡素な美と言えるものです。その美しさを知ってもらおうと、伝統を守りながらも用途を広げ、海外進出も果たした八木氏。表面的な美しさだけではなく「簡にして美、用にして美」を追求する職人は、どのような人物なのでしょうか。

父親に事業継承を反対されて始まった「外への挑戦」

開花堂の茶筒は、創業当時イギリスから輸入されたブリキを初代が考えた製法で作ったのが始まりです。現在でも当時の製法を守り、ほぼ手作りで製造されています。一見、簡素に見える茶筒ですが、その工程は130にものぼるそうで、まさに職人技。八木氏は子供の頃から、その美しさや工程に見せられて、当然のように6代目就任を父親に相談しました。
ところが、その返事は、「後を継いでも稼げないから、会社勤めをしろ」という、期待していた言葉とは正反対のものでした。確かに開化堂を含む工芸品製造企業は生産効率の悪さなど、将来にのビジョンが見えない部分も大きいのも確かです。そこで、八木氏は、「『後を継いでも稼げない』を覆さないと、この先、自分の孫の代まで残る事業にできない」と感じ、もっと工芸の良さを知ってもらう「外への挑戦」を始めたのです。

京都の伝統工芸を世界へ


開花堂の茶筒 参照:https://www.premium-j.jp/premiumsalon/20211025_17384/#page-5

開花堂がある京都は、言うまでもなく多くの老舗企業がある土地柄です。そして、その老舗企業の中でも八木氏のように伝統工芸の未来に不安を感じている人たちがいました。八木氏の「外への挑戦」は、その人たちの心をつかみ、6名の有志が集まって「GO ON」という活動が始まります。
この活動では国内や海外でワークショップを開催。それぞれの工芸品がその特徴を活かした作品を発表しています。八木氏の場合では、例えば茶筒を使用したスピーカーを製作しています。これは茶筒の中にスピーカーを設置して、蓋を開けたときにだけ音が鳴るというもの。開花堂の製作する密閉性の高い茶筒だからこそできる工芸品と家電の融合と言えるでしょう。

工芸品をさらに広めるために

父親から受けた『後を継いでも稼げない』という言葉。八木氏はその言葉を覆そうと、開花堂の技術と製品を未来へと残せるように、さまざまな企画を立ててアピールをおこなっています。ただ、あくまでもメイン商品は茶筒。茶筒があって、その技術から派生する商品も製作する、というスタンスです。

見えない技術に手間をかけるということ


珈琲缶 参照:https://www.kaikado.jp/product01/

開花堂のメイン商品である茶筒は、シンプルで簡素なものです。ただ、そこには利用する人のことを考えた、見えない技術が駆使されています。
例えば、茶筒のフォルムです。一見すればまっすぐに作られているように見えますが、実は微妙にカーブをしていたり、膨らみをもたせたりしています。その計算しつくされた細工こそ、茶筒の密閉性を極限まで高めることにつながっているのです。「簡にして美、用にして美」を実現するには、職人の高い技術が必要です。八木氏は、そのことを存分に知ってもらうことによって、工芸品の普及につなげているのです。

他にはないデザインも魅力


ティーポット 参照:https://www.kaikado.jp/product12/

「簡にして美、用にして美」を実現する八木氏。「美」すなわち、そのデザインにも大きな注目が集まっています。海外のデザイナーと交流する中で、次のように言われたといいます。「この雰囲気を出したくて色んなデザイナーがデザインを描いてるけれども出せない、だからあなたのが選ばれるんだよ」。八木氏は、100年以上の歴史の中で、余分なものを削ぎ落とした美しさが、世界的にも認められたと感じたそうです。
これからも伝統工芸の普及に積極的に関わりたいと語る八木氏。「商品について、自ら世界に発信していけるようにならないといけないんです」とも語り、職人自らも商品のアピールする必要性も訴えています。

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