伝統ある茶釜づくりに挑む若き職人
江田 朋氏 参照:https://shukado.com/artists/eda-tomoya/?lang=ja
江田朋氏は、1993年栃木県生まれ、佐野市の鋳物工房「和銑釜(わずくがま) 江田工房」の二十三代目当主である江田蕙(えだけい)氏の次男です。子供の頃から父親の手伝いが大好きだったという江田氏は当然のごとく、職人の道を目指し現在は父親のもとで修行を続けています。今回は古来からの伝統である鉄鋳物(てついもの)の技術でつくられる茶釜製造を受け継ぐ若き職人、江田朋氏をご紹介します。
幼い頃から父の仕事が大好きだった
佐野市市民ギャラリーで作品展 参照:https://townpicks.net/2021/04/13/sano-imono/
江田氏は幼いことから父のことを「何かを作っている人」と認識していたそうです。それが、成長をするに連れて、作業のことが徐々にわかるようになり、小学校に入ってからは工房に入ってさまざまな手伝いをするようになったといいます。そして、芽生えた考えが「僕も茶釜を作りたい」というものでした。
中学生や高校生になれば、さまざまな進路の選択肢が出てくるものですが、江田氏は「自分の作ったものが100年、200年って残ると考えたら、鋳物師という仕事がすごい魅力的に思えたんです」と語るように、ブレることなく職人の道を進むことを決意していました。高校卒業後は、岩手大学、東京芸術大学大学院で鋳金を学び、卒業後には長野工房の釜師である二代目長野垤志(ながのてっし)氏に弟子入りし、茶釜作りの技術と、茶道を学びます。
初代の長野垤志氏は、茶の湯釜の製作で人間国宝となった重鎮で、父の江田蕙氏が師事した人物でもあります。親子2代での長野工房への師事は、日本の茶の湯釜製作のなかでも、技術継承でのひとつの基盤になる体制とも言えるでしょう。
江田氏は長野工房での3年間の修行を終え、現在では実家である江田工房で父の指導を仰いでいます。
茶の湯釜の名産地である栃木県佐野市
ドイツで開かれたイベントで父親と一緒に実演
日本での鉄鋳物の歴史は古く、茶の湯釜をはじめ、刀や鍋、ハサミなどが製造され、その原点は平安時代や鎌倉時代にまで遡ると考えられています。その産地として有名なのが、筑前国芦屋津(現、福岡県遠賀群芦屋町)と、下野国佐野庄天命(現、栃木県佐野市犬伏町)。江田工房がある佐野市は、古来から鉄鋳物の一大生産地だったのです。
そして、この地で製造される鋳物は「天明鋳物」と称されます。西暦939年に藤原秀郷が平将門の乱を鎮めるため、河内国から5人の鋳物職人を天命(現在の栃木県佐野市)の地に住まわせ、武具を作らせたことが発祥だと伝わります。その後は、武家社会に茶の湯が流行したことで、茶の湯釜の名産地として知られるようになり、1000年以上の時が流れました。
現代では茶の湯釜の需要はあまりなく、佐野市でも衰退が続きます。しかし、江田氏は、この伝統工芸品に新たな風を吹き込み生産を継続していくために挑戦を続けています。
自由な作風で、誰にでも興味を持ってもらえる作品をつくる
真形釜「鬼ヶ島」
大学での現代的な造形と、長野工房での修行で得た伝統的な技術や製法。江田氏はそれらをすべて吸収して、新たな造形をアウトプットしようとしています。
「伝統」と「歴史」は古臭いものではない
紗織透鉄瓶
幼い頃から父親の仕事を見て育ち、さまざまな作品も見てきた江田氏ですが、長野工房に入ってすぐに、職人としての自分の考え方が間違っていることに気付かされます。
「師匠(二代目長野垤志)に弟子入りして、最初にデザインを見せた時に『若いのにこんな古臭いものを作るなよ』って言われたんです。その時『伝統』『歴史』という言葉の意味をわかったつもりになっていたことに気づきました」
江田氏が職人として最初に学んだことは、伝統や歴史は姿形ではなく、その技術と精神が受け継がれるということ。そして、実家に戻った江田氏は、その精神を実現していきます。
経験を積みながら自分の造形を追求する
烏鷺図布団釜
江田氏の父親である江田蕙氏は、こう語ります。「日本の工芸は何でもそうなんですが、デジタルで計測せずに職人の感覚で作るものです。鉄を見れば温度がわかって、砂を握った時の重さで自分の作りたいものに合ってるかがわかるような、そういった感覚は経験でしか身に付かないので、地道にやっていくことが必要ですね」
その言葉通り、江田氏は現在職人としての経験を積んでいる最中です。そのなかでも、現代社会で興味を持たれる要素やアートとして海外でも評価される作品づくりに挑戦しています。
岩手大学で学んでいたときから、地元の工芸美術展では入賞などを経験。長野工房時代、そして、現在でも埼玉県美術展覧会、東日本伝統工芸展 、伝統工芸日本金工展などに入選する活躍を見せています。
伝統を重んじながら自らの革新的な作品を造形していく若き職人。茶の湯という文化的な伝統も相まって、江田氏の作品には多くの注目が集まっています。