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日本のものづくりデザイナー32~江戸風鈴職人・篠原 由香利(しのはら ゆかり)~

新風を巻き起こす「江戸風鈴」の継承者


篠原由香利氏 参照:https://www.edocore.net/kougeisha/kou-shinoharayukari.html

夏の暑さに爽やかな涼感を与えてくれる「風鈴」。なかでも「江戸風鈴」と呼ばれるものは江戸時代からの製法を守り、ユニークな図柄が特徴です。ただ、この「江戸風鈴」という呼称は昭和40年ころに考え出されたもの。江戸川区にある風鈴製造所、篠原風鈴本舗の2代目篠原 儀治氏が江戸時代と同じ製法で製造している自社の風鈴を「江戸風鈴」として商標登録したのです。それまでビードロ風鈴やガラス風鈴と呼ばれていましたが、商標登録を契機に製造法も厳密に規定され、篠原風鈴本舗の一門のみが名乗れる伝統工芸として確立しました。そして、令和の時代、その「江戸風鈴」の伝統を受け継ぎなら、異業種とのコラボレーションなど新風を巻き起こしている女性がいます。篠原風鈴三代目、篠原裕氏の長女である篠原由香利氏です。

子供の頃から家業に興味はあったが……


東京都の伝統的工芸品チャレンジ大賞奨励賞を受賞した「TOKYO」シリーズ 参照:https://www.edocore.net/kougeisha/kou-shinoharayukari.html

篠原由香利氏は1981年東京都の生まれ。風鈴製造という家業を持つ家に生まれたため、子供の頃から自然と工房に入り、作業の手伝いをしていたといいます。子どもながらに、ものづくりに対する面白さもあったそうですが、一方では家内工業的な仕事慣習に対して「9時から5時で終わる仕事に憧れがありました」とも語っています。
しかし、大学を卒業すると同時に家業に入ることになります。やはり、子供の頃から慣れ親しんだものづくりへの思いがそうさせたのかもしれません。ただ、本格的に仕事として関わると自分の中の考え方も変化していったといいます。「職業としてやってみると、ただ家にこもって風鈴を作っていればいいわけじゃないということが分かりました。接客は好きではなかったのですが、やっていくうちに、お客様と話していると得る物がとても多いことに気がついたんです。こういう柄を作ったら喜ばれるかな? というような、次の作品のヒントになったりもします」と、語るように、篠原氏は更に深く風鈴へと魅せられていったのです。

東京の風景を切り取った絵柄で新たな境地


松坂屋名古屋店での展示 参照:https://www.facebook.com/edofurin.honpo/photos/pb.100063464173159.-2207520000./2904876283138904/?type=3

江戸風鈴の魅力は、その涼し気な音色ももちろんですが、美しい絵付けにもあります。篠原氏はその絵付けを伝統の技法を駆使しながらも現代風にアレンジすることで、斬新な作風を生み出しています。
例えば、平成23年に東京の伝統的工芸品チャレンジ大賞奨励賞を受賞した作品シリーズ「TOKYO」では、東京の街並みを切り絵風に表現。そうすることにより、斬新さと懐かしさ同居する作品となり、若い人から年配の方まで幅広い年代から孔ん入される作品となりました。

異業種とのコラボレーションも推進


篠原風鈴本舗 参照:https://www.facebook.com/edofurin.honpo/photos/pb.100063464173159.-2207520000./2634189526874249/?type=3

篠原氏はさらに革新的な風鈴にも挑戦しています。自分の趣味であるロックに関するものや、有名キャラクターなどの著作権を持つ企業とのコラボレーションなど、伝統と革新を共存させた作品をつくり続けています。

デザインの魅力が購買にもつながる


手塚作品とのコラボレーション 参照:https://meipro-newworld.tokyo/?mode=f2

伝統工芸品の衰退が叫ばれて久しい現在。篠原氏は消費者の購買意識を高めるものとして、デザインが重要だと考えています。
「ロックが大好きなので、時折ドクロ柄など趣味全開の風鈴もデザインしています。若い方が、DJをやっている友人にプレゼントをしたいといって、わざわざ訪ねてきてくださったこともありました。デザインには、見た目で『欲しい』と思わせる力があると思うので、今後風鈴を展開していく上でも、デザインの力は活かしたいですね」と、語るように、今までの既成概念にとらわれない絵柄も多く展開しています。
近年では、ウルトラマンシリーズを制作する円谷プロとのコラボレーションで実現した「ウルトラマンシリーズ」、手塚プロとコラボレーションした「鉄腕アトム」や「火の鳥」など、伝統工芸品と接点のなかった人でも手軽に手に取れて、その良さをわかってもらえるきっかけになっています。

伝統工芸は継承をしながら、更に発展させていくもの


青と赤の2色の金魚が描かれた、篠原風鈴でも人気の柄 参照:https://item.rakuten.co.jp/meipro/16002/

江戸時代の風鈴は、その時代に流行していた世俗や慣習を絵柄にしていたそうです。それは江戸時代の職人たちの感性が詰まった作品とも言えます。それは現代でも同様です。篠原氏のように守るべき伝統製法は守り、現代の流行やデザインを表現することにより、現代の伝統工芸品が出来上がるのです。
もちろん、原点回帰の道もあります。革新的な作品の一方で篠原氏は違う道も模索しています。「江戸硝子の職人さんとのコラボレーションで、風鈴に金魚の柄を彫っていただくなど伝統の技を活かしつつ、新しい表現方法を模索しているところです。今後は、原点に戻ってこうした『いかにも江戸』という、伝統的な風鈴を中心に作っていきたいと思っています」。
伝統工芸は一部の蒐集家のものではありません。広く一般の人にも受け入れられることこそ「工芸品」となるのです。さまざまな道を同時に歩むことで幅広い層に訴求できる、「江戸風鈴」の今後に大きな期待が寄せられています。

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