素材の可能性を引き出し、時代にとらわれないデザインを
進藤 篤氏 参照:https://www.atsushishindo.com/about
進藤篤氏は1991年生まれ。東京藝術大学大学院デザイン専攻課程修了後、インテリアデザイナーとして企業オフィスやホテルなどのデザインに携わりました。素材へのこだわりが強く、ひとつの素材だけを使用し、その魅力を最大限に引き出すことで個性的な作品を生み出しています。
学生時代から注目されていた若き才能
蜂蜜色のガラスを透明なガラスの中に閉じ込め、真鍮製の台座から光を受けることで、蜂蜜色の光が輝く照明 参照:https://www.atsushishindo.com/about
進藤氏は藝大在学中から、その才能を注目されていたクリエイターでした。大学を卒業後は著名な内装設計企業でインテリアデザイナーとして活躍。国内はもちろん、海外のオフィスやホテルなどの案件を担当してきました。
一方、個人的な活動としても、伝統産業やものづくりのデザインやアーティスティックな面を模索し表現するアートフェスティバル『DESIGNART TOKYO 2021』で「UNDER 30」に選出されるなどの活躍を見せています。
日本的な価値観が求められている
羽織からインスピレーションを受けた照明シェード 参照:https://www.atsushishindo.com/about
中国など海外での仕事も多い進藤氏は、近年、繊細さやシンプルさの中にラグジュアリー感を見出す「日本的な価値観」を求められることが多いといいます。そして、それは世界的な標準にもなりつつあるとも、進藤氏は言います。
「そのためにもタイムレスなデザイン、そして時代にとらわれないことを大切にしています。これは自分の作品作りの観点も同じで、身近なものやみんなが知っているものには共通の美しさがあると思っています。海を見てきれいだなと感動するのはこれから何千年先にいる人たちも同じでしょうし、時代が変わっても基本的なことは何も変わらないと思っています」
その言葉のとおり、進藤氏のデザインは流行におもねることなく、素材と向き合い根源的な美しさを表現することに終始しています。
素材を通して自然とつながる
へちまを使用したインテリアアイテムブランド「LUFU」 アロマスプレーを吹き付ける事で、香りを広げるフレグランススタンドにもなる 参照:https://www.atsushishindo.com/lufu
近年、進藤氏が考えるのが「昔のものが姿を消していく現実」ということでした。日本的な価値観を生み出してきた日本の自然や原風景も、姿を消す場所が多くなっていることに対して、自分はどうすべきなのか自問をすることが多くなったそうです。そして、それに対する自分なりの答えが「自然とのつながり」を表現することでした。
富山で出会ったへちまから生まれたインテリア
風がヘチマの繊維質を通り抜け、軽やかに宙を舞う。その動きとリズムは心地よい時間を運んでくれます。参照:https://www.atsushishindo.com/lufu
富山の自然が育んだへちま。そのへちまを使用したインテリアアイテムブランドが「LUFU(ルフ)」です。県内で無農薬へちまを育てる企業と進藤氏がコラボレーションしたブランドで、この試みについて進藤氏は次のように語っています。
「小学校の時にみんなでヘチマを育てて、たわしを作ったりしませんでしたか? 忘れていたけど、昔は記憶の中にある素材や暮らしの中の道具が緩くつながっていた時代がありました。日本の原風景とまではいかなくても素材や暮らしの中にも守っていかなければならないものがあるはずです」。
まさに日常の中で、素材を通して自然とつながる、というコンセプトを具現化したブランドと言えるでしょう。
優しく、緩くつながっていく
大地を連想させる照明器具「DIG-DUG」 参照:https://antenna.jp/articles/16932170
進藤氏は、へちまのほかにも、「土」という素材に注目した照明もプロデュースしています。オーダーメイドに特化したタイルメーカー・織部製陶とのコラボレーション作品「DIG-DUG(ディグ ダグ)」です。大地をくり抜いたような造形と、土の質感が印象的な煉瓦の照明器具で、土と炎の力強さが伝わるデザインとなっています。
このようなデザインプロデュースを通じて、自然とのつながりを日常生活に取り入れる試みをしている進藤氏。ただ、強い自然回帰を求めているわけではありません。
「みんな、自分らしさを自由に確立できているような時代になったのかと感じています。以前だったら大きな流行にみんなが乗るような雰囲気でしたが、今はそれぞれの個性の中で生きていて、人とのつながり方も大きく変わってきたと思います。緩くつながる、とでも言いましょうか」と、語るように、人間関係も自然との関係も、優しく、緩くつながることが進藤氏の考え方と言えます。そのコンセプトのもと、今後も自然とのつながりを感じさせてくれるオブジェクトを発表してくれることでしょう。