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日本のものづくりデザイナー44~プロダクトデザイナー 深澤 直人(ふかざわ なおと)

素材の可能性を引き出し、時代にとらわれないデザインを


深澤直人氏 参照:https://designing.jp/naoto-fukasawa

深澤直人氏は1956年山梨県の生まれです。多摩美術大学プロダクトデザイン学科卒業後にセイコーエプソン入社。1989年に渡米し、ID Two (現 IDEO サンフランシスコ)入社。シリコンバレーの産業を中心としたデザインの仕事に7年間従事した後、1996年帰国。2003年に独立し、NAOTO FUKASAWA DESIGNを設立しています。現在では国内外の多くの企業から依頼があり、日用品や電子精密機器からモビリティ、家具、インテリア、建築に至るまで幅広く活動しています。今回はグッドデザイン賞をはじめ、世界各国で多数のアワードを受賞しており、日本を代表するプロダクトデザイナーの一人である深澤直人氏をご紹介します。

数々のヒット作を生み出したデザイン理論


深澤氏がデザインした壁掛け式CDプレイヤー

深澤氏がデザインした作品群は大きな話題を呼ぶことでも有名です。例えば、2000年に発売された無印良品の壁掛け式CDプレイヤー。換気扇のようなデザインは、人間が無意識にやってしまう行動原理を観察することから生まれたと言います。この作品同様に、深澤氏はデザインをするにあたり、理論や科学的な考察、哲学、倫理観といったものを重要視しています。
この考え方こそが、人々を魅了するデザインを発信し続ける深澤氏の原点とも言えるでしょう。そして、この原点に内包されるもう一つ重要な要素に深澤氏は【工芸】をあげています。
「環境に対する配慮、多様な生物と共生するための試み、そしてその基盤となる科学的な思考や倫理的な問い。それらを内包していたのが『工芸』でした。日本におけるデザインは、産業や経済にフォーカスを当てるかたちで発展し、花咲きましたが、それがいま大きく壊れつつある。その一方で、工芸は科学的、あるいは生物的・環境的な観点への配慮をしたうえで成立していた世界だったのだなと」と語っています。また、この考え方を実践するように、深澤氏は2012年より「日本民藝館」の館長を務めています。

民芸に現代的なデザインの原点を求める


東京都目黒区にある日本民藝館

深澤氏が注目するのは、「工芸」ではなく、「民芸」。それは、「工芸」には皇族や貴族への献上品から民衆の日用品まで含まれますが、「民芸」は柳宗悦が提唱した大正時代の「民藝運動」により端を発した「民衆的工芸」という意味合いがあるからです。
「民衆が生み出した工芸の基本的な考え方は『小さくやること』。ムダのない方法で、ムダのないものを、ムダにならない量だけつくることが、当たり前の世界でした。しかし、産業が発展し、大量生産・大量消費時代がやってきたことによって、そういった現在から見ると理想的なものづくりは息を潜めてしまった。そしていま、科学的なアプローチによってそれを取り戻そうというのが、僕の目論見なんです」と語ります。

工芸とデザインについて考える


深澤氏が手掛ける伝統的な和紙を使用したバッグ「SIWA」 参照:https://kurura-shop.jp/collections/siwa/products/tabletcase_bag

日本民藝館の館長に就任してから、深澤氏は積極的にメディアで民芸について発言。また、六本木で展覧会を開催するなど、積極的に民芸について発信していきます。また、工芸についても「工芸とデザインの境目」という展覧会を金沢21世紀美術館で開催するなど、両者の違いを鮮明にする試みもおこなっています。

工芸とデザイン、そして境目


工芸とデザインの境目として展示された深澤氏作の椅子、HIROSIMA

「工芸とデザインの境目」展では、1本の線を引き、その左側を「工芸」、右側を「デザイン」と分けて展示をしていました。ただ、その「境目」も存在しています。例えば、椅子の展示では深澤氏自ら手掛けたマルニ木工の椅子《HIROSHIMA》が「境目」として展示されました。ただ、境目には、アップルのコンピュータ、ブラウンのオーディオなども含まれており、深澤氏のユニークな視点が窺えます。
これは、深澤氏自身も「その境目というのは非常に曖昧であります。これは工芸でこれはデザイン、といったように一本の線を引くことは困難です」と語るように、見る人、使う人の主観により、境目は変化するものだということを示唆していると考えられます。

「いいものとは何か」を常に問い続ける


木のぬくもりを感じさせるモア・トュリーズ・デザインの鳩時計も深澤氏のデザイン 参照:http://more-trees-design.jp/project/cuckoo-clock/

日本に伝わる「用の美」は、一時期、華美なものの影に隠れてしまいました。しかし、大正時代の「民藝運動」により、その姿を再び現し、現代のデザイナー深澤氏により、その価値を高めています。モノにこだわり、「用の美」を表現する、それが深澤氏の基盤とも言えます。
そして、これからのものづくりを担う若手デザイナーに対して、深澤氏は次のように語っています。「とにかく自分の手を動かし、ものをつくり続けてほしいですね。『最初は自己満足だっていい。自分がこれをつくり出したんだ』という感覚を持つことが自信につながるし、ものをつくり続けることでしか、『いいものとは何か』を理解することはできないだろうと思います。とにかく、つくる環境に身を置き続けることが、何よりも重要なんです」
深澤氏自身も『いいものとは何か』を常に問い続け、これからも日本を代表するデザイナーとして活躍を続けていくっことでしょう。

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