日本一の匠と逸品を知りたいみんなのためのコミュニティサイト 匠ウォンテッド

日本のものづくりデザイナー47~ジュエリーデザイナー 井上 寛崇(いのうえ ひろたか)

「見たことがないジュエリー」をつくり出す独創的なデザイナー


井上寛崇氏 参照:https://www.jewelryjournal.jp/interview/13661/
2有機的なフォルムのFloating Hoop Earringは藤の花の蔓をイメージ 参照

「Hirotaka(ヒロタカ)」のブランド名で、ニューヨークを拠点に活躍するジュエリーデザイナーの井上寛崇氏。その作品はシンプルで繊細、ミニマルなことが特徴です。かつてバーニーズニューヨークのバイヤーに「少しでも見たことのあるデザインだったら買わない。でも、あなたのジュエリーは今までに見たことがないから買う」と言わしめたほどの独創的なジュエリーは、現在世界的な人気を博しています。今回は日本でも人気のジュエリーデザイナー井上寛崇氏をご紹介します。

「やりたいこと」を求めて巡り合ったジュエリーの世界


有機的なフォルムのFloating Hoop Earringは藤の花の蔓をイメージ 参照:https://www.jewelryjournal.jp/interview/13661/

井上氏はロサンゼルスの大学で学び、卒業後はIT企業に就職しています。もともとはジュエリーデザイナーとは全く畑違いの道を歩んでいたわけです。しかし、転機は、井上氏がIT業界での仕事に自分の「やりたいこと」が無いと気づいたときでした。
「やりたいこと」を探すため、IT企業を背水の陣で辞職した井上氏は、パリに渡りあるジュエリーコレクターと出会います。そして、「やりたいこと」への道が一気に開かれたのです。
「実は子どもの頃から自分は大のジュエリー好き。能や謡をたしなむ母はファッションが好きな人でジュエリーも集めていたのでその影響かもしれません」と語るように、そのときジュエリーというものを初めて職業として意識したそうです。

ハイジュエリーよりも「スタイル」を重視するファッションジュエリーへ


Bow Earringのシリーズ。弓から着想を得てつくられたもの 参照:https://www.jewelryjournal.jp/interview/13661

パリで出会ったコレクターの紹介で、井上氏は日本のジュエリー会社に就職。デザイン室に配属され、多くのことを学びます。しかし、その企業は数百万円や数千万円というハイジュエリーが中心だったため、井上氏が思い描く独立をして自分でビジネス展開をするには適さない分野だったのです。そこで、井上氏が目をつけたのが、ファッションジュエリーでした。
「ハイジュエリーは宝石そのものの価値も判断基準の大きな割合を占めます。比べてファッションジュエリーは価値も価格もうんと下がりますが、ブランドの世界観や身につける人のストーリーなど、そういった”スタイル”を提案するところが最大の魅力だと思います」。そして、「やるからには世界を舞台に」との思いからニューヨークを拠点に2010年に自分のブランドを設立します。

独創性が評価されたミニマルなデザイン


食虫植物の優雅でしたたかなスローモーションをデザインのインスピレーションにしたドロセラコレクション 参照:https://store.hiro-taka.com/collections/new/products/ds21kdezr

自らのブランド「Hirotaka(ヒロタカ)」を設立した井上氏ですが、当初はほとんど評価されませんでした。当時、ニューヨークでのトレンドは大ぶりのコスチュームジュエリーで、井上氏の小ぶりでシンプルなデザインは多くのバイヤーが拒否反応を示したのです。ところが、ユーザーであるスタイリストやモデルからの反応は正反対でした。「こうゆうのが欲しかった!」という口コミは瞬く間に広がり、現在の成功へとつながっていきます。

引き算で生まれるジュエリー


古代から変わらない姿を保ち、生きた化石と呼ばれるチョウザメ。硬い骨のウロコに守られたベルーガをインスピレーションとしたコレクション 参照:https://store.hiro-taka.com/collections/beluga/products/pe85kdez6

井上氏が生み出す独創的なデザインは、自然界の動物や昆虫や、街の風景から得たものだと言います。「動物の爪、目元、脚とか。昆虫のお腹や植物の蔓とか。風景も一部分を切り取ったりして。そういった視点でフォーカスしたディテールを限界ギリギリまで抽象度を上げて完成したものが、Hirotakaのジュエリーなんです」と語る井上氏。
さらにHirotakaのデザインには『引き算』というキーワードも重要です。「抽象度を上げる、つまり引き算することがデザインする上で何よりも大事。だから完成したジュエリーはすごくミニマルなスタイルですので何でも捉えられるんです」と、その独創的な発想方法を語ります。

デザインの根底を流れる日本人らしさ


リニューアルした表参道店の内装 参照:https://www.vogue.co.jp/fashion/article/2022-03-24-hirotaka

「海外のバイヤーからは日本人だから日本らしいジュエリーをつくらないの?と聞かれますが、自分の中では引き算のデザインこそ日本らしいと思っているのですが……。古くから伝わる日本の芸能や意匠はどれも引き算された美学が宿っているような。ミニマルなものは普遍的なものでもあります。家紋や着物の柄などがそうですよね」と、井上氏が語るように、Hirotakaのジュエリーの根底にあるものは、日本人らしさです。井上氏はそれを公に主張することはしませんが、デザインはもちろん、職人の手作りにこだわる姿勢も、日本の高いクオリティ意識から生まれているとも言えるでしょう。
2022年にはブランド旗艦店である表参道ヒルズ店が、フロア面積を2倍に拡張してリニューアルオープン。ニューヨークから逆輸入された形で、日本でも人気がさらに上昇しています。
「いつかミュージアムのような空間の店を開きたいですね。夢に出てきたありそうでない芸術品みたいなジュエリーを並べたりして。場所はアクセスしやすいところ。東京? ニューヨーク? でもまずは邁進あるのみ。思いを込めてジュエリーをつくり続けていきます」と、井上氏は今後の抱負を語っていました。

情報や質問や感想などコメントを残そう!

モバイルバージョンを終了