包丁は、現代における日本刀であると言っても過言ではありません。
包丁は、料理人は言わずもがな、日常でも毎日使いますよね。
しかし、安価で購入した包丁は、すぐに刃こぼれしてしまったり、切れ味が悪くなってしまったり・・・。
そんな経験はないでしょうか?
そんな、毎日使うものだからこそ、どうせなら良いモノを長く使いたいですよね。
今回は、鍛治の本場、日本で作られる包丁についての基礎知識から、その製作過程、職人のこだわりまで、細かくみていきます。
包丁の基礎知識を知ろう
初めに、『包丁』の基本についてみていきましょう。
包丁の刃は、鋼(はがね)でできています。
鋼は、鉄とは違う金属として扱われ、昔では刃金と書いて、はがねとも呼ばれていました。
鋼は、鉄にわずかに炭素が混ざったモノで、これに焼きを加えることで固く、頑丈な金属となります。この鋼を使うことにより、より精度、密度の高い強固な包丁が出来上がるわけです。
鋼は、日本では貴重な金属とされているため、切れ味をつける、いわゆる『刃先』の部分に主に使われ、その鋼の箇所を磨いで刃をつける作業が、『包丁研ぎ』です。
お持ちの包丁を実際に見てみると、実際に刃のついている部分だけ、少し素材感や色味が違っているのがわかると思います。
包丁には、『研ぎ頃』と呼ばれる、お手入れの基準があります。
研ぎ頃とは、文字通り、包丁を研いだ方が良いとされているタイミングのことです。
実の所、包丁は毎日研ぐのが一番いいとされていますが、それはなかなか難しいですよね。
この研ぎ頃を確かめるためには、トマトを使用します。
トマトを切ってみて、新品の状態(一番切れる状態)を100とした時に、感覚的に80,90の切れ味のタイミングで研ぐのが良いとされています。
トマトが包丁の切れ味を確かめる基準となっているなんて、少しびっくりですよね。
しかし、あまりに鋭利に包丁を研ぎすぎると、刃こぼれの原因にもなってしまいます。
包丁を長く扱うためには、完璧に研ぎすぎず、あえて未完成の状態で残しておくのがポイントとなります。
包丁鍛冶職人とは?
暗い工房の中、熱を帯びた赤い光をまといながら、カンカンとハンマーで鉄や鋼を叩き、鍛える。
そんなシーンをテレビや映画、あるいは実際に見たことがあるという方も多いのではないでしょうか?
彼らは鍛冶職人と呼ばれ、包丁やハサミをはじめとした、鉄や鋼を鍛錬して、製品を作る職業です。
そして、包丁づくりを専門とするものは『包丁鍛冶職人』とも呼ばれ、古くから受け継がれてきた伝統の技を用いて、その腕をふるっています。
包丁鍛冶職人は、日本製の包丁である、『和包丁』の製作を主としており、名のある包丁鍛冶職人が手がける包丁は、最高級の切れ味と、見た目の美しさを誇っています。
包丁鍛冶職人になるには、師匠となる職人の元に弟子入りをすることで、その技術を学ぶというのが基本となっており、一人前と認められるまでには5年〜10年かかるとも言われているほど、奥が深く、技術が問われる仕事なのです。
しかし、完全技術主義のため、腕さえ磨くことができれば、学歴や職歴などは一切関係ありませんので、これぞ職人の世界だと言えるかもしれません。
その切れ味はまるで日本刀!最高品質を誇る日本製包丁
日本で作られる包丁は、『最高級』とされることも多く、手入れをしながら長く使うことで、自分だけの包丁へと育てることができます。
日本製の包丁は、和食人気の高まりに比例して、海外でも注目がされており、国際的なナイフショーやコンテストにおいては、その品質と優れた機能・デザインが評価されています。
日本の包丁が評価されているポイントとして一番初めに挙げられるのは、その鋭い切れ味でしょう。
西洋の包丁は「押して切る」イメージですが、日本製の包丁は力を使わず、「引くだけで切れる」という違いがあります。
テレビ番組や動画サイトなどで、寿司職人が魚を捌く映像などで、スーッと包丁を滑らかに流して捌いている姿を見たことはないでしょうか?
日本製の包丁を使えば、素材の旨みを損なわず、繊維を保ったまま美味しく調理することができます。
この切れ味は、言わずもがな『日本刀』に由来しています。
はるか昔から築かれてきた日本の鍛冶文化は、世界で見ても群を抜いて優れていると言っても過言ではないでしょう。
日本製包丁の種類
日本製の包丁が世界中で多くのシェアを集めている理由のひとつとして挙げられるのが、切れ味や見た目の美しさもさることながら、その種類の豊富さ・多様さでしょう。
日本製包丁は、各用途に合わせて、さまざまな種類があります。
ここでは、日本製包丁の種類と特性についてさらに詳しく見ていきましょう。
日本刀の伝統的な技術を使った和包丁は、主要なモノであれば3種類に分けることができます。
刺身包丁
細身で、頭身が長く、魚などを捌くのに適した包丁です。切れ味が非常に鋭く、食材の繊維を潰さず、鮮やかな切り口で、旨みを保てるのが特徴です。
お寿司屋さんなどで、寿司職人が長い包丁を使っているのを見たことがある方も多いのではないでしょうか。
出刃包丁
こちらもよく聞く名前の包丁ですね。
出刃包丁は、鋒(きっさき)が鋭く尖っており、分厚さのある包丁です。
骨の硬い魚・肉を調理する際や、硬い食材を切る際にも用いられる、比較的、パワフルな包丁です。
菜切り包丁
菜切り包丁は、野菜などを切るために用いられる包丁で、みねと刃が並行になっており、刃全体が長方形になっています。
菜切り包丁は、食材に刃が入りやすく、わずかな力で綺麗に切ることが可能です。
菜切り包丁は、関東、関西で形が異なり、関東の菜切り包丁は全体が四角く、切先が鋭くありません。
一方で、関西の菜切り包丁は鋒が尖っていて、丸い曲線を描いています。
このように、地方によって形が異なるというのも日本製包丁の特徴とも言えます。
こういった、和包丁の種類に加えて、材質も鋼製、ステンレス製、セラミック製と、さまざまな素材から選ぶことができます。
筆者のおすすめは、冒頭でも解説した鋼で出来た和包丁です。
手入れをすれば長く使えますし、使えば使うほどに手に馴染み、自分の専用包丁として育っていきます。
包丁ができるまで
様々な種類が存在する包丁ですが、具体的にどのような技術と工程で製作されているのでしょうか?
前述したように、日本の包丁は古来より引き継がれている「日本刀」の製造方法と近しいものがあります。
包丁を製作する場合は、大きく、成型⇨硬化⇨研ぎの3工程に分けることができます。
成型の行程は、文字通り、包丁の形を整える作業です。
しかし、この成型の方法だけでも、鍛造、プレス加工、レーザー加工と様々で、鍛造は、昔ながらの製法で、「火造り」とも呼称され、熱した鉄をハンマーで叩きながら、一つ一つ手作業で行います。
前項で紹介した和包丁は、主にこの製法で作られているものが多く、手間がかかる分、値段も高くなり、大量生産が難しいというのも特徴としてあげることができます。
その他『プレス加工』や『レーザー加工』は、プログラムや機械などを駆使することにより、簡単に素早く、大量生産ができることから、ホームセンターなどで扱われる包丁などが主に製作されています。
機械・プログラムを駆使することで生産性は向上しますが、やはり手作業で整形された包丁には、手作りならではの味と、頑丈さが兼ね備えられています。
「火造り」を経て成型された包丁を、次は「焼き入れ」と「焼き戻し」という作業を行い、より頑丈なものへと作り上げていきます。
この作業は、包丁に命を吹き込むための大切な行程とされています。
まず、炭素網で950度前後、ステンレス網を1050度〜1100度に熱し、赤くなるまで加熱してから水や油で急速に冷却することで、より強固にしていきます。
しかし、このままでは刃こぼれがしやすいため、焼き入れ温度よりもかなり低い温度(180度〜210度)に再加熱して冷ますという、「焼き戻し」を行うことで、素材に靭性と呼ばれる、柔軟性がプラスされ、刃こぼれや折れを防ぐことができ、使い勝手がよくなります。
成型が完了し、焼き入れ・焼き戻しを行った後は、包丁に刃をつけていく作業になります。
こちらももちろん全て手作業で行われ、「研削⇨研磨⇨刃付⇨刃先研磨」の工程を数回にわたって行い、切れ味を鋭くしていきます。
包丁の大枠が完成すると、木材などを使用し、『柄(ハンドル)』をつけて完成です。ハンドルは、ステンレスなどの場合、そのまま何もつけず完成という場合もあります。
このように、和包丁が一本できるまでにも、複雑な行程と、知識、技術が必要なんですね。
最後に
いかがでしたか?
今回は、包丁の種類や製法、そしてそれを鍛える職人について取り上げました。
普段から当たり前のように使っている包丁の一本一本が、複雑な工程を経て我々の手に届いていると思うと、なんだか感慨深いですよね。
和包丁に限らず、全ての包丁には、職人の熱と、魂が込められています。
”刃を鍛え、己を鍛える”
そんな言葉をどこがで耳にしましたが、確かに、鍛冶職人が鉄を叩いている姿は、己を鍛錬しているようにも感じられます。
そんな美しい包丁作りの世界に、少しでも興味を持って、知っていただけたなら幸いです。