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日本のものづくりデザイナー46~越前和紙職人 山口 真史(やまぐち まさし)

伝統技法と現代的な技法を共存させる生産方法を模索


山口 真史氏 参照:https://prtimes.jp/story/detail/qb2Kjvc24vB

山口 真史氏は現在36歳、大学卒業後、洋紙を扱う会社に入社。その後、26歳の時に実家であり、日本三大和紙にも数えられる「越前和紙」を製造する山伝製紙へと転職しています。山伝製紙も含めて和紙業界では、ほかの伝統的な産業と同様に効率的な製造方法や販路などの問題を抱えています。山口氏は、それらの問題をさまざまな手法で解決しようと試みており、その現代的なアプローチが注目されています。

「文化を創る」和紙製造


引掛け模様で製作されたノート 参照:https://note.com/cosmotech/n/n2c074627e75f

山伝製紙では、主に和紙を機械で漉く「機械漉き」をおこなっている企業です。機械生産のために大量生産が可能で手漉きと比較して価格も抑えられることが特徴となっています。主要な用途としては、さまざまなパッケージや日本酒のラベルなどに使用されています。
ただ、機械での大量生産だからといって、流れ作業的に紙を生産しているという気持ちはないと山口氏は語ります。機械漉きでも伝統製法を駆使しており、後工程や後加工のことも考えて、各々の従業員が担当する工程では、常に自分のベストをつくすように心掛けているのです。気持ちの面では、「 ただ、紙をつくっている 」 のではなく、同時に 「 文化を創る 」 という意識と誇りを持って製造に携わっているのです。

越前和紙の歴史と製法


越後和紙を漉く「抄紙機(しょうしき)」

越前和紙の起源は、はっきりとわかっていません。ただ、継体天皇が越前にいたとき(西暦507年頃)に紙漉きが始まったとの伝承があります。また、日本に紙が伝わったとされる4世紀から5世紀ごろにはすでに越前和紙は漉かれていたとの古文書があることから、約1500年前には越前和紙が生産されていたと考えられます。
その流れを汲む山伝製紙では、特に「引掛け和紙」という特殊な製造技術を持ちます。この技術は、模様をかたどった薄い金属製の金型に、原料の繊維をつけ(ひっかけ)、その模様を地紙に重ねて、模様をつける方法です。非常に美しい模様を描くことができますが、製造には手間がかかるために現在、越前和紙の企業でおこなっているのは山伝製紙だけだと言います。
しかし、技術の継承には苦労しているようで、「今では金型そのものをつくる職人がいないため、今ある金型を修復しながら使用しています。伝統技法を残すため、金型に代わるものとして、3Dプリンターを活用できないか等、日々検討しています」と山口氏が語るように、新たな技術を取り入れて、伝統的な製法を守るチャレンジもおこなっています。

現代的な商品開発とサスティナブルな挑戦


「紙だのみ」のマスクケース 参照:https://echizenwashi.stores.jp/items/5f24045e223ead7ee6e374cc

和紙の使い道の多くは固定化されています。しかし、新しい市場を開拓していかなければ、事業を継続していくことも難しくなります。そこで、山口氏がチャレンジしていることは、前述のような新しい技術の導入、そして、新たな製品開発や無駄をなくすサスティナブルな試みです。

消臭抗菌和紙「カミだのみ」


ディスプレー用のショッパーを展示している店舗 参照:https://prtimes.jp/story/detail/qb2Kjvc24vB

新しい製品としては、多くの日本人が持つ「清潔」という概念に合致するものでした。人工酵素と銅イオンの力で抗菌作用と消臭効果を持続するように和紙を加工。紙ですからさまざまな形状に折ることで、トイレや下駄箱などの消臭、抗菌シートなどに利用できます。
新型コロナウイルスの流行により、マスクが必需品となった期間では、マスクケースとして使用されることもありました。また、ペーパーパレードという企業とのコラボレーションにより、「折り紙マスク」としても発売され、テレビでも紹介されるなど、大きな話題となりました。

「損紙」を活用した紙袋


職人の手で丁寧に折られるショッパー 参照:https://prtimes.jp/story/detail/qb2Kjvc24vB

ペーパーパレードとの仕事は、マスク製造以降も続きます。それが、「損紙」を使用した紙袋の開発でした。山口氏は、製造工程ででてしまう半端な製品にならない紙「損紙」についてこう語ります。
「山伝製紙では、おみくじに使われる「引っ掛け和紙」など手漉きの工程を機械化して和紙生産を行っていることもあり、損紙の数が通常の和紙のラインよりも多く出てしまいます。でも、紙のクオリティが落ちているわけではありません」
この損紙を有効利用しようという企画が「ショッパー(ブランドの紙袋)」の製造でした。まず、試験的に新宿や丸の内などのディスプレイを開始。客やスタッフからも高評価を得たため、現在では店舗導入の準備をしていると言います。
現在では山伝製紙の職人さんたちが、ひとつひとつショッパーを製作していると言います。山口氏は、「はじめはクオリティがまちまちで上手ではありませんでした。(笑)でも、職人さんにフィードバックしながら一歩ずつ進めていくことで、最終的にみんなのクオリティが安定しました。徐々にカタチになってお客様の目に触れて、その声を職人さんに伝えていくにつれて『自分たちで折ったものが目に見えるプロダクトになっていくことが新鮮!』『今までにない感覚。』という喜びの声が上がるようになりました」と、嬉しそうに語っています。
山口氏は、伝統的な製造方法を継承しながらも、現代の生活に合わせて改革を推進しています。それは、3Dプリンターなどの技術開発やサスティナビリティという資源問題など多岐にわたります。新しい考えを取り入れながら、古来からの産業を守る、このことは現代のあらゆる伝統産業に共通して実施していくべきことだと言えるでしょう。

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