自分で手を動かし、試行錯誤をすることで生まれるデザイン
吉行良平氏 参照:https://www.axismag.jp/posts/2023/03/523173.html
吉行良平氏は、1981年大阪府の生まれです。世界的にも有名なデザインスクールである、オランダのデザイン・アカデミー・アイントホーフェンに留学。オランダのトップデザイナーであるアーノート・フィッサーの元で研修を積み、世界的なデザイナーが集まるデザインプラットフォームで「ドローグデザイン」のプロジェクトにも参加しています。帰国後の2009年には自らのデザインスタジオ「吉行良平と仕事」を設立しています。今回は「自分の手を動かすことで生まれるデザイン」を追求する吉行良平氏をご紹介します。
ロボットがきっかけでものづくりの道へ
「form」(2018)。山次製紙所と協働し、セキサカの企画イベント「ataWlone(アタウローネ)」で製作 参照:https://www.axismag.jp/posts/2023/03/523173.html
吉行氏がものづくりに興味を持ったきっかけは、ロボットでした。それは、漫画やアニメのキャラクターではなく、高校生たちが手づくりのロボットの性能を競う競技会で見たものだったといいます。テレビ放映されていたその競技会を見て、吉行氏はただボールを転がすという単純な動作をするために、一生懸命、考えてつくったと思われる不思議な外形と奇想天外な動きに魅了されたのです。
ロボットの構造に興味があった吉行氏は高校進学で機械科を目指しますが、不合格となってしまいます。ただ、この挫折が進路への大きな転換点となります。進学に迷っているときに大阪市立工芸高等学校の先生から「ロボットは内部からだけではなく、外からも考えることができる」という言葉を聞いて、同校への入学を決意。工芸とデザインを学び、ものづくりへの情熱がますます膨らんでいったのです。
海外留学で得た「自分の手でつくる」というデザイン方法
高さの異なる家具を置くことで空間に広がりが感じられるという効果に気づき、DAEの卒業制作でつくった棚「your level」(2007)。その後はスツール「your level stool」(2009) 参照:https://www.axismag.jp/posts/2023/03/523173.html
高校卒業後、吉行氏は富山県の高岡短期大学で金属工芸を専攻し、交換留学生制度を利用して、フィンランドのラハティポリテクニク(職能大学)で木工技術を1年間学びます。留学終了後は、さらにデザインを学ぶために、オランダへと渡りデザイン・アカデミー・アイントホーフェンへ入学。インターンシップにより、オランダの有名デザイナーであるアーノート・フィッサーのアシスタントも務めました。
そのアシスタント時代に培われたことこそ、「自分の手でつくる」ということでした。「アーノウトは失読症ということもあって、言葉だけによる説明をとにかく嫌う人でした。デザインの手法を整理して伝える程度では納得せず、形づくって見せない限りは『お前のアイデアじゃない』と一蹴されるほど。だからこそ、より実証的なものづくりに専念するようになっていきました」と、語るように、デザインはその素材に触れながら試行錯誤をすることによって生み出されるということを実感したのです。
実験と検証を繰り返す、日常から生まれるデザイン
子供用踏み台「small step, gialn leap」 参照:http://www.ry-to-job.com/hp_ry/re_2.html
オランダから帰国した吉行氏は、2009年に自らのデザイン事務所兼作業場を大阪近郊に開設します。その場所は、かつて町工場が点在していた場所。そして、吉行氏の事務所件作業場はデザインスタジオのイメージとは異なり、町工場さながらに試作をつくるための道具や機械類が並び、製作過程で生まれた実験物、普段から収集している多種多様な素材も置かれているのです。この場所で吉行氏は、現在日常から得たアイデアによるデザインを多く生み出しています。
子供の誕生もきっかけとなり、日常を意識するように
実際に踏み台に乗り、ひとりで手洗いをしている様子 参照:https://www.axismag.jp/posts/2023/03/523173.html
子供の誕生やコロナ禍により、家族で過ごす時間が増えたという吉行氏。その日常から生まれた作品のひとつに「small step, giant leap」という踏み台があります。子供が手洗いをするために使用することを想定して製作しました。しかし、製作した踏み台に、最初は乗ってくれなかったそうです。
その謎が解けたのは、やはり日常からのヒントでした。「ある日、公園の砂場で遊んでいるときに、娘には好きな踏み位置があることに気づいたのです。階段縁の一部分だけ少し砂がくぼんでいて優しい造形だなと思い、踏み台の一段目を曲線を描くようにへこませてみたところ、娘は使うようにりました。ただそれだけのことなんですけれど、そのカーブがあることで空間にもなじむものになった。新たな発見でした」。このように、日常から感じたことを丁寧拾い上げることで、吉行氏のデザインはなりたっていくのです。
気負わずにやる、それが心地よいカタチにつながる
「d plate」(2021)。長崎の波佐見焼ブランド「zen to」で製作したカレー皿 参照:https://www.axismag.jp/posts/2023/03/523173.html
日常を意識する以前は、少し気負っていた気持ちがあったと言う吉行氏。「これまで何か大それたことを考えていたような、少し気負っていたところがあったのかもしれないと思いました。踏み台のデザインも試行錯誤を重ねながらふっと肩の力を抜いたときに、心地いいなと思う形が生まれ、同時に、用途や技法製法にもつながる可能性のある形や色、情景が無限にあるという期待に嬉しさを感じました」と、語るように、これからも自然体で心地よいデザインを生み出してくれることでしょう。