陶芸家、セラミックコミュニケーターとして陶芸の未来を拓く
前田 直紀氏は1977年静岡県藤枝市の生まれです。陶芸家としては年3~4回、毎回約200点くらいを個展や企画展で発表し、注文制作を含めれば、年間3000個くらいを制作しています。一方で「セラミックコミュニケーター」と名乗り、陶芸によるさまざまなコミュニケーションも模索しています。
陶芸家を志した数々の出会い
前田氏は静岡県葵区に工房を持ち、繊細で個性的な作風でオリジナル作品を製作しています。陶芸の道を志したのは、いくつかの出会いがあったからだと言います。
まず、小学校4年生のときに出会った藤枝市陶芸センターの館長です。陶芸教室に参加して製作した器を「天才だ!」と褒めてもらい、陶芸への興味が大きく膨らんだそうです。
大学時代には建築を専攻していましたが、そこで講師の一人として教えていた世界的な陶芸家の先生が、世界中の陶芸に関する話をしてくれて、非常に影響を受けました。
そして、京都宇治での修行時代の師匠である野嶋信夫氏との出会いも、作業の中で盗む力や観察眼が養われたと言います。
このような出会いから影響を受け、陶芸の道を選んだ前田氏。しかし、ほかの陶芸家と違い特定の会派にもこだわっていませんし、大きなコンクールや賞、コンペにも出品していません。それは、「セラミックコミュニケーター」としてのやり方でもあるのです。
セラミックコミュニケーターとは何か?
前田氏によれば、セラミックコミュニケーターとは「陶芸を使ったコミュニケーションを促進する人」と言う意味。
陶芸教室で教えることはもちろんですが、「僕の制作風景やスピード感を見せることで、世界の人がどういう反応をしてくれるのかを知るのが楽しくて、定期的に海外で公開制作や販売をするようにしています」と語るように、世界中で製作工程を公開するパフォーマンスを実施していて、観衆とのコミニュケーションを生み出しています。
きっかけは海外での体験からで、「作品を鑑賞するだけが陶芸ではなく、作る工程も陶芸だと意識するようになりました。作るだけではなく、みんなで共有できること=陶芸を使ったコミュニケーション→セラミックコミュニケーターと転化していきました」と言います。
作陶風景を見てもらうことこそ、評価につながる
世界各国でパフォーマンスを実施してきた前田氏。その観衆の反応こそが自分に対しての真の評価だと気づき、陶芸家として独自の道を歩み始めます。
パフォーマンスが良質の作品づくりにつながる
「フランスでは、モチーフの意味、ラグジュアリー感の演出表現の重要性、綺麗に見せる手法を学び、フィンランドでは、環境を活かす制作方法に気づかされたりしました」と語る前田氏。それらの多くは、公開製作というパフォーマンスにより得られたものです。
「海外で公開制作をすると、陶芸を始めたころのワクワク感がよみがえり、原点に戻ることができます」と当時の気持ちを語るように、前田氏はパフォーマンスによる高揚感やワクワク感により神経を研ぎ澄まし、そして、多くのものを得ることが可能となる。そして、それが次の作品づくりへと昇華されるという好循環になっているのだと考えられます。
土地に根づき、土と向き合う
将来の夢は「これ!というような、代名詞的なものが作り出せれば、腰を据えて『半農半陶』生活を送ることです。地元の土、木、薪窯で陶器を焼き、地元に根付いた生活です」と語る前田氏。
土と向き合い、大きなコンクールや賞やコンペにも出品せずに、作陶風景を見せるパフォーマンスをおこなうなど独自色の強い陶芸家です。
その道を貫き、今後も素晴らしいパフォーマンスと作品を生み出し続けてくれるでしょう。それは、夢である『半農半陶』が実現しても、途切れることはないはずです。